見出し画像

経営実務のための会計(4):レレバンス・ロスト

コンサルティング業務に従事した若かりし頃に、複合的な事業経営をしているある会社の事業部評価やグループ会社への経営管理制度・システム導入の基本検討プロジェクトがありました。

その時、事業部制やグループ会社経営のあり方について、自社グループとは違った目線で勉強させてもらったのですが、この会社で本社経営企画部門と財務部門とで、組織別P/Lの見方や業績管理指標について意見が異なることに驚きを感じました。

一緒に仕事をしていた会計士さんから「これがいわゆる『レレバンス・ロスト』ってやつだね」と言われて、初めてこの言葉を知り、さっそく本を購入して読んで見ました。(この本も、もう絶版のようです)

いまでは詳細な内容は覚えていないのですが、「どうも、管理会計制度は理論どおりに導入を進めれば、うまくいくというものではないらしい」ということを自分なりに理解できたと考えています。

今回、改めて、この本のタイトルを思い出し、調べてみたところ、当時、管理会計の世界では必読書と言われていたそうです。

この本の著者の一人、ロバート・キャプランはこの後、ABC(活動基準原価計算)デビット・ノートンと一緒に「バランスト・スコアカード」を生み出していった会計学の権威の方です。

管理会計や原価計算は進化していない?

改めて、ネットで調べてみたところ、以下の論文が参考になりました。
『レレバンス・ロストの再考』 三木 僚祐(摂南大学准教授) 
 経営情報研究 第20巻第1号(2012年9月)

この論文からキャプランの主張を引用します。

「DuPont(1903 年)と、General Motors の再編成(1920 年)は、分権化された業務のマネジメント・コントロールにおける主要な革新に対する機会を提供しており、それらの企業により、業績評価のための ROI という尺度、公式の予算管理、およびインセンティブ計画が生まれた。より最近の展開には、割引キャッシュ・フロー分析と、経営科学や多人数決定理論の適用が含まれる。
直接労務費が高い割合で含まれる標準製品の大量生産のために 60 年以上前に開発された原価計算とマネジメント・コントロールの手続きは、現代組織の計画や統制に対してもはや適切なものではない。
「事実上、今日の企業で用いられている実務や主要な原価計算の教科書に記述されている実務のすべては、1925年までに開発されてしまっている。
組織の性質や競争の規模が過去 60 年の間で相当に変わってしまっているにも関わらず、原価計算とマネジメント・コントロール・システムの設計と実施に関して、ほとんど変革は起きなかったのである。」

三木先生によると「Kaplan は、明言はしていないが、事業部別業績管理の登場が、原価計算の発展を止めたということを主張したかったのだと思われる」と書かれています。

事業部制成立とともに管理会計がマネジメント・コントロールに短期業績主義を深く埋め込んでしまった弊害をおっしゃられているんだと考えられますが、この話は次回、もう少し詳しく掘り下げてみたいと思います。

『レレバンス・ロスト』を読む

もう一つ、この本を改めて精読されて解説されている方がいました。たぶん、大手企業の財務部門で立派な仕事をされ、シニアとなってからも勉強がてら理論書の再読とともにご自身の実務経験からの貴重な気づきを丁寧に書き進められています。

いまの経営企画部門や財務部門の方の多くは80年代や90年代の制度導入当時、目指していた方向性と現実的な落とし所のギャップを知らずに、導入済みの制度や仕組みをそのまま引き継いでいます。そのため、既存の制度や運用上の前提、限界に疑問を持たずに鵜呑みにしている傾向があるので、こういったシニアの方々の経験・知見は本当に貴重だと思います。

私はまだ現役ですが、シニアに片足を突っ込んだ年齢になっていますので、自分がこれまでの経験から得られた知見をこのブログや何らかの形で後進や経営実務を勉強中の若い皆さんに伝えていければと改めて思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?