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両利きの経営(1):導入編

前々回までの「イノベーション」に続いて、今回のテーマは「両利きの経営」についてです。

両利きの経営

一昨年、翻訳本が発売されて話題になりましたが、皆さん、すでに読まれましたでしょうか? ネット上で簡単にその内容紹介や解説されているページもありますが、ぜひ、本書を手に取って実際に何が書かれているか、じっくりと読んでみてください。

米国2大MBA スタンフォード大学のオライリー教授とハーバードビジネススクール タッシュマン教授の共著により、なぜ既存企業がイノベーションやビジネスモデル転換に成功しないのか、豊富な事例を元に「成功の罠」にはまった企業と、変化に適応できた企業の特徴やポイント、戦略上の考え方を一つずつ取り上げています。

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その中で、この書籍の一番のコンセプトは既存事業を強くする「知の深化」とイノベーションを起こす「知の探索」は同じ組織・企業文化・管理手法の中では両立しづらいと分析しています。この2つの知のコンピテンシーを両方同時に回すこと、両利きになることが、事業環境変化に俊敏に対応し、大胆に変革を続ける企業になるための必須条件だと述べています。

両利きの経営


このnoteでも、昨年は経営実務に必須となる管理会計や事業部制などマネジメントの精度向上(=知の深化)に関するテーマが中心でしたが、それらや前回のイノベーション(=知の探索)のテーマの中で「過度なマネジメント」が成長や変革の足かせになる可能性を少しずつコメントしてきました。

両者を別々に捉え、それぞれの戦略や個別解を語っているうちは良いのですが、経営は総合芸術、オーケストレーションが大切です。
中長期戦略と短期戦略と同様に、この2つをどうバランスさせるのか、何を生かして、何を止めるのか? イノベーション組織をどう配置し、評価するのか、デジタル特区のように出島にするのか、既存組織の中にくっ付けておくのか等々、経営トップ・組織長にとって本当に悩ましいテーマです。

なぜ、難しいのか?

以前、経営戦略:総論(2)で紹介した「世界標準の経営」の著者で、この本の翻訳者でもある早稲田大学BS 入山章栄教授がダイヤモンド社HBRセミナーで、日本企業にとってなぜ両利きの経営が難しいのか端的に話せれていました。

何より、知と知の組み合わせなんて、失敗することが多い。一方、会社には予算があり、予実管理が重視されますから、「知の探索」が無駄に見えてきて、どうしてもいま儲かっているところ、「知の深化」に偏ってきます
日本企業によくある話ですが、新規事業開発本部やイノベーション推進部といった専門組織をつくり、最初の3年ぐらいは若手を抜擢して、鼻息も荒く、がんばって「知の探索」をします。ところが、3、4年もすると、社内に不穏な空気が漂ってきます。「あいつら、お金ばかり使っているのに、成果を出していないじゃないか」と言われ、予算が回らなくなって、もう一方の「知の深化」に偏っていく……。

イノベーションの回で話してきたように、技術開発であっても、ビジネスモデル改革であっても、成功する確率は千三つの世界です。計画通りにいかないのが常。必死に暗中模索・七転八倒を続けた先に光が見える世界です。

一方、十分な売上と市場を確保し得た既存事業においては、経営管理やオペレーションの高度化、また営業活動の徹底により、売上や利益を計画通りに着実に増やしていく努力が求められます。

この2つの世界の住人を同じ会社組織の中に同居させ、お互いをリスペクトし、さらに相互連携させるのか、それがこれまでも悩ましい問題であり、日本企業成長の重要なポイントであるため、本書が大きな話題になったのだと考えています。

次回以降もこのテーマを私なりに少し深堀していきます。


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