岡田光信
9.模擬デブリの捕獲に成功!(2)
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9.模擬デブリの捕獲に成功!(2)

岡田光信

前回のブログから続きます)

さて、25日の夜になりました。夜になり、様々なチェックを終え、いよいよ実証開始目前となったとき、チームから緊急の連絡がありました。それは予想していなかった不具合でした。

「模擬デブリの管制センターのシステムが落ちました!」

ELSA-dを打ち上げてから5ヶ月あまり。一度も起きなかったこの不具合ですが、こういった事象は事前に想定しており対処策は準備済みでした。順番に、原因追求、復旧、そして衛星との通信確認を行う手順を整えていました。

しかし、今回は不具合を取り巻く状況が想定外でした。実証開始まで30分しかありません。その間に、上記手順をすべて行えるのか。復旧チームはすぐに原因を突き止め、復旧させました。けれども、管制チームからは「実証開始前に、模擬デブリとの通信を確認する計画になっていない」と報告を受けました。

「模擬デブリと通信を確認できない状態での実証はやめるべき。万が一捕獲に失敗して、模擬デブリが宇宙空間で迷子になったら発見できない」。私は実証を一旦中止しようと思っていました。

社内のみならず、投資家、メディア、政府、宇宙機関などからこの日のために多くのサポートを頂いているので、実証延期は手続き面でも心身面でも大きな負担がかかります。ですが、私はCEOとして、安全な実証を心がけなければなりません。

そんな時、PMが考えていた解決案は違いました。「じゃあ、ELSA-dが通る軌道の真下にある地上アンテナを探して、そこに新規接続してみて模擬デブリと交信してみよう。」でした。エンジニアたちの答えは、「それ、できる」でした(なお、エンジニア達の会話はすべて英語です。このブログでは便宜上日本語にしています)。

そこからわずか10分以内だったと思います。すべてを解決したのは。使用予定ではなかったアンテナを使って、模擬デブリと通信が確立したことを確認しました。その発想の豊かさ、意思決定の速さ、落ち着きぶりは目を見張るものがあります。

実証開始のGoサインを出すことができたのは、実証開始予定時刻の1分前でした。

そして、模擬デブリの切り離し、自由運動状態にしてから、捕獲衛星で捕獲することに成功しました。

#9 図1

鳴り止まない拍手。

シミュレーターというものがあり、事前に細かい想定をしているのですが、ミリ単位でいろんな動きが正確だったことが検証できました。あの遠い宇宙空間で。秒速7〜8kmという猛烈な速度で飛んでいる物体を、超精密に運用できたというのは大きな自信となりました。

いろいろな「世界初」があるのですが、そのニュースは世界を駆け巡りました。深夜から始まるメディアインタビュー。

チームにはもう帰っていいよと言うのですが、まだデータの分析と整理があると帰りません。いえ、成功したミッションのデータ分析ほど楽しいことはないのです。

この日の成功は、デブリ除去に向けて大きな扉を開いたことになります。

次回は「アストロスケールという社名の由来」をお送りします。

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岡田光信
株式会社アストロスケールホールディングス 創業者兼CEO。1973年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒。 国際宇宙連盟(IAF)副会長、英国王立航空協会フェロー、世界経済フォーラム(ダボス会議)宇宙評議会共同議長等を兼務。 著書「愚直に、考え抜く。」(ダイヤモンド社)