【ちょっと昔の世界一周】 #4 《旅人》
「コッチダヨ。ニホンゴOK!」
いかにも片言の日本語で案内され、私は建物の中に入って行った。
ここは旅人の間では有名なタイ・バンコクにある〝カオサンロード〟
ラオス行きのバスのチケットを求め、私は日本語が通じるという旅行会社へ来ていた。
*****
両替を済ませ、タイの通貨であるパーツも手に入れて本格的に旅を楽しもう。
そう考えた私だが、出国前に考えていたルートを思い出し、次の目的地である〝ラオス〟に行く為のバスを探すことにした。
とはいえ当てもなくというわけではなく、事前に調べてあった〝日本語〟が通じる(日本人オーナー)旅行会社に行ってみることにし、お店があるカオサンロードに向かった。
とはいえ向かうもなにも、宿を出て一本大きな通りを越えれば見えてくるはず。
昨夜、夜にも関わらず人でごった返していた街は朝も同じようにごった返していた。
巨大なバックパックを背負ったいかにも旅人といった人から、朝の散歩といった感じで店を開けている知り合いに話しかけている地元の人。
とにかく様々な人たちがいる。
その中を思い出した〝目的〟に向け私は歩いた。
一応、車道と歩道の境はあるのだが歩道側には屋台が並んでいる。
そこには朝食をとっている旅行者や地元の人たちがいる。
そこを利用しない人たちは車道を歩く。
どうやら車道ということになってはいるものの、どこを歩いてもいいらしい。
私はなんとなく歩道寄りを歩いているが、堂々と真ん中を歩く人たちも大勢いる。
そこに車が向かってくる。
とはいえ、車側もわかっているらしくゆっくりとしたスピードで走ってくる。
それに気づくと歩行者も一時的に避ける。
『車道・歩道というよりも〝道〟としてみんな使ってるんだな...』
そんな考えで歩いていると大きな通りに着いた。
確かこの通りを超えたら着くはず...
そう思って道の反対側を見ると、一際人の流れが多い場所がある。
『あそこがカオサンロードだ』
【カオサンロード】
旅人の間では聖地と呼ばれる場所。
格安ゲストハウスや旅行会社、レストランもあればタイ式のマッサージ店といった観光客が求めているモノは大概揃っている。
さらには合法かどうかは別として〝国際学生証〟を作れる店もある。
そして、明らかに違法の物も手に入る場所・人もいるらしい。
いわばなんでもありの場所。
道路を挟んで見るその雰囲気に私は吸い込まれていった。
『俺って旅してるな』
一人そんなことを考えながら歩を進める。
様々なゲストハウスやレストランの看板。
車道・歩道の境目がわからなくなるほどの屋台。
そして道を埋め尽くす人、人、人...
先ほどまでの道でも人が多いと思っていたが、ここはそれをはるかに超えていた。
目的の旅行会社を探しながら歩いていると横で様々な言葉が飛び交っている。
英語はなんとなく聞き取れる気がするが、他の言語は分からない。
ただ道を歩いているだけで今まで生きてきた一生分の外国語を聞いたのではないか。
そんなことを思っていると、ガイドブック(迷い方)に載っていた旅行会社の看板を見つけた。
事前にメモに書いておいた名前と看板を見比べて確認していると、その建物前にあった屋台で話し込んでいた女性が声をかけてきた。
「ニホンジン?ヨウジアルカイ?」
と看板を指差しながら言っている。
「Yes…」
いきなり話しかけられ驚きながらも返事をすると、手招きしながら案内してくれた。
中に入ると様々な地名が書いてあり(もちろん英語で)料金も載っている。
奥に目をやってみると、いかにも旅行者といった雰囲気の日本人らしき人たちが数人いる。
その横にテーブルがあり、そこに座っている男性に先ほどの女性が話しかけた。
「オキャクサンダヨ〜」
その声で一同こちらを向く。
「いらっしゃい、どんな用事?」
おそらく店長(従業員は見当たらないが…)らしいその男性が挨拶してくれた。
「ラオス行きのバスを予約したいんですけど…」
「ビエンチャンかい?いつ?」
「えっと…3日後です…」
話があっという間に進み少しドキドキしていた。
「3日後!?意外と先だね」
出発前に計画していた流れでは、バンコクで3日ほど過ごしてから行く予定。
席がとれないと困るので到着翌日に予約をしておこうと考えていた。
その考えで言ったのだがなぜか驚かれた。
なぜだろうと思っている私の気持ちを察したのか店長が
「みんな今日や明日の分を買いに来るから、3日後って言われて驚いたよ。君、もしかして旅は初めて?」
別に隠してはいないのだが、あっさり見破られた…
そんな旅を始めたばかりの私だったが、その空間は
〝旅人〟
という存在を教えてくれる素晴らしい場所だった。
予約・購入の手続きをしている間、店長や周りにいた人たちと色々と話をした。
昨日バンコクに着いたこと、これから世界一周の旅をすること、とはいえ海外一人旅が初めてのこと。
そんな私にみんな様々なアドバイスをくれた。
ラオスに行ったらここがオススメ、ヨーロッパの旅はどうやったら安く楽しめるかや南米は強盗に気をつけろといったことまで…
あまりにたくさんの情報が入りすぎて処理しきれないほどだった。
そうしているうちにバスのチケットも準備ができ、そこでの目的は済んだのだが話が止まらない。
聞くこと全てが新鮮で楽しい話だった。
そうしていると新しいお客さんがやってきてまた新しい話になる。
そんな感じで時間が過ぎていった。
みんな一通り話終わると自然に挨拶をして離れていく。
私もそろそろ行こうと思いその場を離れようとすると店長が
「話になってたけど楽しい話もあれば危ない話もある。これからいろんなことがあると思うけど、一番は安全に!そして楽しんでね!」
そう言って送り出してくれた。
確かに、楽しい話だけではなく危ない話も出ていた。
ここは日本とは、さらに住み慣れた地元とは違う。
だからこそ想像できないようなトラブルが起きるかもしれない。
その代わり、それに勝るとも劣らない楽しさもあるだろう。
あの場にいた人たちはそんな経験をしてきた〝旅人〟たち。
私もそんな旅人になれるだろうか…
そんなことを考えながら外に出ると先ほどの女性がまだおしゃべりをしている。
店長曰くスタッフだったようだ。
こんな感じで働くのもここでは普通のこと。
改めて日本とは違う。
だからこそ気をつけようと心に決めた。
別れ際に目があったので Bye !! と声をかけると
「キヲツケテネ〜 Bye !!」
と笑顔で返してくれた。
何気ない一言だったがとても心に響いた。
確かに日本で考える勤務態度でみれば疑問に思うだろう。
しかし、ここは違う。
たった一言だが〝旅人〟という存在をいつも見ているからこそ、そこに響く言葉に感じた。
まだまだ旅は始まったばかり。
とはいえ、私の旅人生活が始まった気がした。
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