8ヶ月筐体設計を業務でやって思ったこと

新年あけましておめでとうございます.のぶです.
今年も宜しくお願いします.

4月から新卒として入社し,受託開発を中心に筐体を設計してきました.新年明けまして,去年の得た知見や所感をつらつら書きたいと思います.

入社前

入社前は大学でロボットハンドの設計をやってました.

これとか https://www.open-innovation-portal.com/university/it/post_17.html

主に機構の設計と材質の選定がメインでした.

入社後

入社後は筐体の設計を主にやっています.サブでファームウェアやアプリ開発とかもちょっとやっていますが...

筐体:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%90%E4%BD%93
一般的に筐体という語が用いられるのは、単にその機器を保護したり、パソコンなど発熱する機器の場合にその放熱を助けるためだったり、あるいは裸で設置することが何らかの理由で困難であるために使われる、といったような場合である。ただし、大型のアーケードゲームの筐体などのように、機能を実現するために必要とされるような特定の形状をもつものについて使われることもある。機器の保護に関しては、衝撃や圧力、電磁波、光などに対する防御などが考えられる。

業務で筐体の設計をやっていて大学のなんとなくやっていた設計ですが,業務を通していくつかの気をつける点がわかってきました.
それは以下のことです.

・ プログラムのように操作履歴とコンポーネントを構造化する
・ 各部品の位置決めが重要
・ 製造方法に合わせた設計か
・ 外形デザインと機能性のバランス

プログラムのように操作履歴とコンポーネントを構造化する

近年では3D CADと呼ばれるツールでほとんどの設計が行われていると思います.基本的にCADでは3次元空間に平面を作成し,点や線の幾何情報を作成した後,幾何情報に基づいて直方体や円柱などの立体を作成します.よって,データの構造的に

平面→点→線→立体

といった関係が成り立ちます.平面の位置を動かすと,最終的な立体の位置も動きます.つまり,平面に依存して立体の形状が決まるんですね.
このようにある幾何情報(ジオメトリ)を設計パラメータにして設計していくことをパラメトリックデザインといいます.CADソフト的には履歴が残っていればパラメトリックデザインをしています.

パラメトリックデザインのいいところは設計変更が容易になる点です.例えば,筐体の大きさが変わった時,平面位置を外形のパラメータにしておけば,平面の位置を変更するだけで所望の大きさになります.

たったこれだけですが,入社する前はその考え方すら知らずに設計を行っていました.どうやるかというと,平面を作らずにxyz平面にいきなりスケッチを書き,立体を作り,立体の表面にスケッチを書き,立体を生やす,まさに絵を書くように3D設計をしていました.

まあ,そっちのほうが早いんですが,設計変更があった時に死にます.どこのスケッチを編集すればいいのか,どの履歴を削除すればいいのかまったくわからなくなります.履歴が機能しません.
大学で設計していた時は自分のデータは自分しかいじりませんが,会社では他の人も見ます.その時に,履歴がめちゃくちゃ,親子関係がめちゃくちゃでは誰もいじれず,結局全部一人でやることになってしまいます.

ただデータ構造を意識しながら,親子関係を意識しながら,設計をするだけで複数人で設計を行える設計データが出来ていきます.
後述する,アセンブリ時の部品の位置決めにも平面または線を用いてパラメータ化することで,設計変更が行いやすくなります.

各部品の位置決めが重要

筐体設計の一番重要な点は各部品のアセンブリです.筐体とは各部品を組み合わせて固定する箱です.筐体は部品の位置を決める必要があり,誰が組みつけても,粗い製造精度でも同じに位置に部品が組み付けられる必要があります.輸送の際に,筐体内で部品が宙に浮いたりしては駄目です.

筐体のどの面が部品と接触して位置が決まり,どの面がクリアランスがあるのかを決めるのには細心の注意を払う必要があります.また,その接触面の数で部品が完全に固定されるのかは吟味する必要があります.ここで注意すべきは,位置決めの面は基本的に1方向1面です.1面以上あると,製造誤差によってそれぞれの面の高さに差が生じ,部品が傾いてしまう恐れがあるのです.

他に重要な点は,各部品の特性を理解した上で部品の位置を決めることです.実体験ですと,電磁ノイズを出すデバイスをWi-Fiモジュールの近くに配置してしまったことで,Wi-Fiが使えなくなったことがあります.

電子部品が出す電磁ノイズや騒音,発熱具合,耐熱性など,様々なことを考慮した上で部品の位置を決める必要があります.また,筐体自体にも排熱口であったり,電磁シールドであったり,材質と形状にも部品に合わせて考慮が必要です.

筐体設計には幅広い知識が必要であることを感じました.

製造方法に合わせた設計か

大学では部品の製造に3Dプリンターを使っていました.強度が必要な部品は外部に発注していました.

しかし,量産のことを考えると3Dプリントではまだ不可能な点があります.まずコストが比較的に高いです.また,対応できる会社が限られています.設計をする上で,その部品をどうやって製造するかを念頭に置く必要があります.

試作品は3Dプリントで製造できても,量産品が金型注型で製造できなくては意味がありません.

3軸切削,5軸切削,板金,注型などなど,コスト・材料・形状に合わせて製造方法を決め,製造できる”かたち”に部品を設計する必要があります.これは企業に入らないと意識しませんでした.良くも悪くも,3Dプリンターという便利なツールがあったからです.

外形デザインと機能性のバランス

要望次第でデザイナーが外形デザインを決定し,設計者が内部構造を設計します.そのままデザイナーが構造の設計を行う場合もあります.

よく言われるのですが,デザインと機能性のバランスはやはり重要です

ここに排気口追加,サイズ変更,R変更などなど,当初デザインから内部設計を行っているうちに変更点が必ずしも出てきます.量産が難しい形状であったり,物理的に要件を満たせない形状だったりすると致命的です.デザイナーと設計者が話し合い,よりよいモノに仕上げていく過程はモノづくりにおいて特に重要であると思います.

外形の3Dデータを筐体設計者に渡す時の注意点が一つあります.
それは,

スケッチ・3DデータにRを付けたままにしない

です.
曲面は,意匠性を決める上で重要であることは理解しています.
が,Rを付ける作業は設計の一番最後に行います.Rがついた状態だと非常に設計がしにくいのです.僕はRがついたままのデータをもらった時,しょうがないのですがメモした後,全て削除してから設計を始めます.

ところで,デザイナーと設計者をあえて分けて書きました.元は同じ意味なのですが,日本では必ずしも認識が一致していません.というか,デザイナーというワードが多くの意味にインフレしている印象を受けます.ここでの設計者は,”筐体内部構造の設計者”を指します.

おわりに

徒然と入社後の筐体設計について思ったことを書いていきました.一人で設計して,試作評価で1サイクルが終了していた学生時代.その時とは全然違う考え方が必要になってくるだな,と思いました.
知見 ↓

部品を収める”箱”の設計でも多くのコミュニケーションと知識と労力が必要

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