自社の知的資産を開示する際に注意することは?
【今日のポイント】
自社の「強み」である知的資産は、資金調達から市場開拓などの目的からも社外にアピールしたいものですね。
ただし、開示には自社の知的資産が流出し、真似されるリスクを伴いますので、
「容易に真似できるものか、真似できないものか」を区分けして、それぞれの開示リスクを把握のうえ、開示前から備えておくことも必要と考える次第です。
※>なお、本記事は、あくまで私が考える情報開示の際の注意点の一部であり、実際に情報開示する際には、1.に記載した公的機関のガイドラインなどの資料の確認や専門家へのご相談をご検討いただければ、大変幸いに存じます。
1.知的資産には開示しても容易に真似できるものと真似できないものがある
以前のブログトピックス『QA>中小企業は知的資産をどのように社外へのアピールに活用しているだろうか?』 https://note.com/nobu_g_smb/n/n67d9a07e388e で、主に金融機関や投資家に自社の強みである知的資産をどのように開示しているかの事例について、
特許庁が公表している令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)報告書』(特許庁の公表記事:https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/r5-chusho-shien-bunseki-chizai.html)の概要をお伝えしましたが、
開示する際には、開示先(特定の相手か、不特定多数か)や、開示目的によって、開示内容や開示方法を精査し、工夫する必要がありますが、それに加えて、
開示や公表して良い知的資産(知財・無形資産)と、ノウハウなど開示せずに、秘密にしておくべき知的資産の区別も必要ですね。
これは開示先や開示目的によっても案件ごとに異なって来ますが、
本記事では、大まかな考え方の一例として、「開示したときに相手が容易に真似できるか、真似できないか」の視点からお話できればと思います。
なお、中小企業が自社の知的資産を開示する際の秘密保持契約なども含む注意点の詳細については、
公正取引委員会や経済産業省などの行政が公表しているガイドラインなどをご覧になることをお勧めします(そのいくつかを以下に記載いたします)。
『スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針』
2022年3月31日の、公正取引委員会と経済産業省の公表資料。
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/startup.html
『秘密情報の保護ハンドブック』
経済産業省(本記事執筆時点の最終回定番は令和6年(2024年)2月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf
『秘密情報の保護ハンドブックのてびき』
経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/170607_hbtebiki.pdf
『限定提供データに関する指針 』
経済産業省(本記事執筆時点の最終回定番は令和6年(2024年)2月)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31pd.pdf
『中小企業経営者のための技術流出防止マニュアル』
東京都知的財産総合センター
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/manual/gijyutsu/gijyutsu.pdf
2.容易に真似できる知的資産の開示を検討する際の注意点
真似できる知的資産としては、データや言葉や図表、更に現在では動画などで表せるノウハウなど、いわゆる「形式知」に分類される知的資産があります。
また、金型など、モノの中に含まれている知的資産も、そのまま模倣できたり、あるいはリバースエンジニアリングなどで解析すれば内容を把握できるものも「真似できる知的資産」と言えるかと思います。
これらの知的資産は、基本的には不特定多数に対して開示や公表を行うことを避けるべきであることはもちろんですが、
取引先など、特定の相手に開示する際にも注意が必要となります。
基本的には、開示先に対して前述のガイドラインなどにも記載されているように、秘密保持契約を結んで相手に秘密保持義務をかけるとともに、
必要最低限の情報のみ開示すること、
また、なるべく自社のHPなどで公開している公開情報を利用することが重要となります。
また、技術情報やビジネスモデルならば、開示する前に特許を取るなどの形で、法的保護を受けられるようにすることも対応策の一つとなります。
なお、以下のブログトピックスでご紹介している特許庁のサイトなどもご参考になれば幸いです。
『意外と面白い?特許庁のコンテンツ』
3.容易には真似できないが、流出するリスクのある知的資産の開示の注意点
容易に真似できない知的資産としては、
特定の人のみ持っていて真似できないスキルや経験知、カンや感性のように開示しても詳細を把握することや開示自体が困難な、いわゆる「暗黙知」に相当するもの、
自社の社風や企業文化、ブランドなど、開示しても簡単には真似できない(真似をするには時間とお金や労力・人材などのコストがかかる)もの
特許権や著作権などの知的財産権によって法的保護を受けているもの
取引先や顧客との信頼関係
などがあります。
知的資産経営の分類でいえば、
暗黙知に相当するものは、多くは「人的資産」に分類されるものであり、
企業文化、ブランド、知的財産権などは、「構造資産」に、
取引先や顧客との信頼関係などは「関係資産」に相当するものかと思います。
ただし、これら「真似のできない」知的資産も、場合によっては開示先に流出してしまう可能性は残っています。
例えば「人的資産」である人材なら転職や引き抜きなどが起こり得ますし、
「構造資産」の一つである特許権で保護している技術についても、相手が真似してもそれを知ることが難しい場合や、また、使っているのではないかと思ってもそれを証明することが難しい場合などは、開示した技術を守れなくなるリスクが出てきます。
取引先や顧客などについても、自社よりも有利な条件や魅力的な商品を提供できる競合が出てくれば、必ずしも安泰とは言えないことは周知のとおりかと思います。
このような、リスクに対しては、
人材が持っている暗黙知などは、自社内の「構造資産」(形式知)に変えてその人材が自社を離れても残せるようにすることが重要となってきます。
特許などの技術については、、ノウハウとして秘匿するほうが良いかを、出願や技術内容の開示の前に検討することが必要となります。
取引先や顧客については、開示時点から、開示後も関係の維持・強化や新しい価値を提供するにはどうすればよいかを検討し戦略を立てておくことが重要かと思います。
以上は、かなり大雑把なお話で恐縮ですが、
「自社の知的資産を知った相手は、それを真似できるか、真似できないか、今は真似できなくとも真似できるようになる可能性はあるか」という視点も加えて、
自社の知的資産を開示する前に検討することをお勧めする次第です。
【今日のまとめ】
※>なお、本記事は、あくまで私が考える情報開示の際の注意点の一部であり、実際に情報開示する際には、1.に記載した公的機関のガイドラインなどの資料の確認や専門家へのご相談をご検討いただければ、大変幸いに存じます。
最後までお読み頂き、有難うございます(*^^*)!
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見出画像:Gerd AltmannによるPixabayからの画像
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