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QA>中小企業は知的資産をどのように社外へのアピールに活用しているだろうか?

【今日のポイント】

自社の見えない強みである知的資産をどのように社外にアピールするかは、悩みどころですね。

今年の4月に公表された、「特許庁の知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究報告書」及び「(試行版)開示項目・観点集」は、事例も含めて、特に資金調達を目的とした金融機関や投資家へのアピールの参考になるものと一読をお勧めする次第です。
*>今回はかなり長文ですので、既に上記の資料をご存じの方は、資料の説明部分は飛ばしてお読み頂いてもよろしいかと存じます。


Q>他の中小企業は、知的財産や無形資産などの知的資産を社外へのアピールの目的では、どのように利用しているのだろうか?


A>2024年4月に公表された、特許庁の知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究報告書では主に金融機関や投資家向けに、自社の知財・無形資産(知的資産)をどのように開示すればよいかについて、大手・中小の先行企業の事例を踏まえて、分かりやすく解説しています。
この報告書(および『知財・無形資産の開示項目・観点集』)と、内閣府が2023年に公表した「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0」を併せて読んでみることで、特に資金調達面でどのように自社の強みをアピールして行けばよいかのヒントが得られるものと考える次第です。

1.特許庁の知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究

少し前になりますが、2024年4月特許庁(https://www.jpo.go.jp/index.htmlは、『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)報告書』を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/r5-chusho-shien-bunseki-chizai.html

(引用は『』でくくります。改行は筆者挿入。以下同様。)

『上場企業のみならず中小企業等にとっても、知財・無形資産の投資・活用戦略を構築・実行し、成長のために必要な資金獲得を目指していくことが重要な課題とされている一方で、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が限られている中、多くの中小企業が自力で企業戦略を構築し、それを開示するまでには至っていないのが現状です。
そのため、本調査では、上場企業における知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示の事例を収集し、投資家や金融機関から適切に評価されている事例を整理・分析することで、中小企業が投資家や金融機関から適切に評価されるために有用と考えられる知財・無形資産の開示の観点や項目をまとめるとともに、中小企業が開示すべき企業戦略のモデルケースを業種ごとにとりまとめることを目的に調査研究を行い、知財・無形資産の開示項目・観点集と報告書に取りまとめました。』

(出典:特許庁『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)報告書について』

上記のサイトでは、報告書と、試行版ですが、中小企業の知財・無形資産の開示に関するガイドラインとも言える、『【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集~中小企業の「強み」を企業価値につなぐ~』を掲載しています。

『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)調査研究報告書』
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/r5-chusho-shien-bunseki-chizai/report.pdf

『【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集~中小企業の「強み」を企業価値につなぐ~』
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/r5-chusho-shien-bunseki-chizai/shikou.pdf

上記の報告書(以下「本報告書」)の構成は以下のとおりです。

1. 背景・目的・調査内容
2. 【調査1】公開情報調査
 ① 調査方針・調査対象
 ② 調査結果概要
3. 【調査2】ヒアリング調査(上場企業)
4. 【調査3】ヒアリング調査(中小企業)
5. 【調査4】ヒアリング調査(金融機関・専門家)
6. 【成果物】項目・観点集、業種別モデルケース
 ① 項目・観点集について
 ② 業種別モデルケースについて
 ③ 成果物について
7. 調査のまとめ 』

(出典:特許庁『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)調査研究報告書』)

上記の(試行版)開示項目・観点集(以下「本ガイドライン」)の構成は以下のとおりです。

『はじめに
1. なぜ知財・無形資産が重要なのか
 ■知財・無形資産とは何か
 ■知財・無形資産の活用に関する大企業の動向
 ■中小企業における「知財・無形資産」の発信の意義

2. 開示の項目・観点
 上場企業の開示例を参考に分析、類型化し、中小企業においても実現するべきと考えられる10種類の知財・無形資産の開示項目・観点を説明

3. 業種別の開示ポイント
製造業、小売・サービス業、情報通信業の3業種を対象に有効と考えられる開示のポイントを説明』

(出典:特許庁『【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集~中小企業の「強み」を企業価値につなぐ~』)

 上記の本報告書では、上場企業のホームページや統合報告書等の公開情報から、中小企業にも参考となり得る知的資産の開示パターンを仮説として抽出し、その開示パターンに該当する大手企業、令和4年度の知財金融促進事業案件の対象から選んだ中小企業、さらに金融機関や専門家それぞれに対してヒアリング調査を行い、
仮説の開示パターンについて整理のうえ、中小企業の項目や観点を本ガイドラインにまとめるとともに、業種別のモデルケースを掲載しています。


この本報告書および本ガイドラインが出た背景には、特許庁の説明にも記載されているように、「コーポレートガバナンス・コード」の改定や、内閣府が2023年に公表した「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdfの策定など、大手企業向けの知財・無形資産の活用促進のための、企業と投資家のコミュニケーション活性化の施策に加えて、

中小企業が自社の強みと事業での活用可能性を社外関係者(特に投資家や金融機関)にアピールするのを後押しすることが必要との行政の判断があることが窺えます。

本調査の全体像(出典:特許庁『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)報告書』)

なお、コーポレートガバナンス・コードや知財・無形資産ガバナンスガイドラインについては、以下の本ブログトピックスもご参考になれば幸いです。

『知財・無形資産ガバナンスガイドラインと知的資産経営の関係は?』


2.報告書およびガイドラインと、知的資産経営報告書との関係

中小企業の知財・無形資産の社外へのアピール支援としては、本ブログの主要テーマでもある「知的資産経営」の観点からも色々な施策が打たれ、ツールも提供されて来ていますが、

 本報告書では、中小企業向けの知財・無形資産の活用促進施策の現状認識として、
事業成長・新規事業、人材育成などに必要な経営資源としての知財(知的資産)の活用と、
幅広いステークホルダーに自社が保有する強みをアピールして資金調達等に役立てるための経営資産としての知財(知的資産)の活用
の2つの面から、中小企業における知財・無形資産への投資に関する開示の課題を挙げています。

その中では、現在の政策上の打ち手として、経営デザインシートや知的資産経営報告書などの知的資産経営ツールの提供も行っているが、十分ではないとの認識を示しています。


本報告書のP6『中小企業における知財・無形資産投資に係る現状認識②』では、中小企業の現在の知財・無形資産の開示レベルに合わせて必要な取り組みを明らかにすることを目的に、ヒアリング調査と分析を実施していることが記載されています。


中小企業において求められる知財・無形資産開示の視点(出典:特許庁『令和5年度中小企業等知財支援施策検討分析事業(知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究)報告書について』)


知的資産経営という言葉自体は本報告書の中では、上記の現状認識のみに出てきますが、
本報告書と本ガイドラインが目指している所は、業種別に、知的資産経営の特に投資家や金融機関とのコミュニケーションの側面での活用の高度化と普及にあることが窺えると感じる次第です。

なお、本ガイドラインの中では、無知的財産・無形資産の10項の開示項目について、項目によっては既に取り組んでいる中小企業の事例紹介として、該当する企業の知的資産経営報告書から引用している記載も5例ほど含まれています。

3.社外に効果的にアピールしている中小企業の事例とそこからの学び

 前置きが長くなりましたが、
本報告書では、11の中小企業 (製造業7社、小売・サービス業2社、情報・通信業1社、建設業1社)にヒアリングし、その概要をまとめています(本報告書 P30)。

開示目的では、自社の知財・無形資産をアピールによるブランディングなどの責と、模倣防止や他社参入の防止などの守りの双方の目的があること、
社内外からの反響などの効果と、開示方法や要員(時間)などのリソース面の課題などが記載されています。

また、知財・無形資産の開示の目的と手段の逆転のリスクを認識しているとの回答がある点も、知財・無形資産(知的資産)の開示を実施するうえで注意興味深く感じました。

本ガイドラインでは、
『2 開示の項目・観点』で、
以下の5つのカテゴリーについて、開示10項目を設定し、各項目ごとに事例を紹介しています。

『【将来性】
①自社の事業の環境説明
②経営戦略・方針への活用
【差別化資産】
③自社の強み(知的財産権)
④自社の強み(無形資産)
⑤知財の保有・出願状況
【成果】
⑥財務指標へのインパクト
⑦具体的な活用事例とその効果
⑧経営上の成果、課題と結びつけて目標値を設定
【ガバナンス】
⑨知財・無形資産の活用がしやすい社内体制
【ストーリー】
⑩因果関係をストーリーとして説明』

(出典『【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集~中小企業の「強み」を企業価値につなぐ~』)

この中で、知的資産経営報告書を引用しているのは、
『④自社の強み(無形資産)』で2例、
『⑨知財・無形資産の活用がしやすい社内体制』で2例、
となります。

また、
『3 業種別の開示ポイント』でも事例を紹介していますが、
「差別化・資産」の項目で、知的資産経営報告書から引用している事例が1例あります。

このように、知的資産経営報告書も、大手企業の統合報告書と同じく、知財・無形資産の開示ツールとして利用できることが、本ガイドラインでも示されています。

【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集(概要) (出典『【試行版】知財・無形資産の開示項目・観点集~中小企業の「強み」を企業価値につなぐ~』)

なお、本ガイドラインの事例は、上記のように10個の開示項目(その目的)別に開示方法のポイントと事例を紹介していますが、

共通して語られているのは、「開示を受ける側(ここでは金融機関や投資家)が求める開示内容と方法で情報提供すること」であり、
その中でも、知財・無形資産(知的資産)自身の説明だけでなく、それがどのような形で、企業の業績や今後の成長に繋がっていくのかという「ストーリー」の提示に関するニーズが大きいことがわかります。

本ガイドラインでは、このニーズに応えるために、上記の開示項目の形ごとに、

・自社が保有する知財・無形資産を具体的に特定し、フレークダウンするとともに、

・企業の事業プロセスや業務もブレークダウンし、・どの事業プロセスにどの知財・無形資産(知的資産)が関与して、・その結果事業のどのような効果(売上高、生産性向上など)に貢献するのかを分析し、提供する

ことを提案しています。


そして開示方法として、上記の各項目とその繋がり方や、
IPランドスケープのような、自社の知財・無形資産(知的資産)のポジショニング
事業上の効果(時系列での変化を含む)
を図やグラフを活用して提示することも勧めています。

上記のような提案を、10個の開示項目ごとに事例を挙げて説明していますので、自社が社外にアピールする目的と対象となる知財・無形資産(知的資産)事に、事例を参照することを、お勧めする次第です


なお、『知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer.2.0』については、以下の本ブログトピックスもご参考になれば幸いです。

『中小企業白書にみる、知的資産経営の適用可能性(後半)』(2023年版中小企業白書から考える、知的資産の活用ツールの有用性)

また、以前のブログトピックス『意外と面白い?特許庁のコンテンツ』
https://note.com/nobu_g_smb/n/nd97eb0ca4489
でもご紹介しているように、特許庁には、中小企業向けの色々なコンテンツが掲載され、随時追加・更新されていますので、時折覗いてみることをお勧めする次第です。


【今日のまとめ】

・Q>他の中小企業は知的資産をどのように社外へのアピールに活用しているだろうか?
・A>2024年4月に公表された「特許庁の知財・無形資産への取組みの情報開示に関する調査研究報告書」及び「(試行版)開示項目・観点集」の事例と開示ポイントが参考になる
・事例には知的資産経営報告書も取り上げられており、知的資産経営と知財・無形資産の開示は親和性があることが窺える
・自社が持つ知的資産、事業プロセス、事業の業績(今後の目標)をそれぞれブレークダウンし、どの知的資産がどの事業プロセスを通してどのような業績に貢献するかのストーリーを作成することが重要
・上記のストーリー作成に、「(試行版)開示項目・観点集」が参考になると一読をお勧めする次第です

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