ERP会計:5-3 ERPで売上アップ 受注業務の効率化(バック・エンド-1)

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 前回は、「受注業務の効率化(フロント・サイド)」を考察した。今回は同じくバックエンドの効率化を検証したい。

 営業というとフロント・サイドに焦点があたりがちだが、実はバック・エンドにこそ、企業業績に与えるインパクトという観点では、大きな貢献余地があると筆者は考えている。

 観点は、1)キャッシュフローの改善、2)利益率の向上、3)貸し倒れリスクの低減 ─ の3つだ。

1)キャッシュフローの改善

 「循環取引」の回にみたように、ERPでは、受注~出荷という業務処理と、在庫の引き当て~売掛計上という会計取引が、一体的に管理される。値引きに加え、保管料や運賃等、付帯する費用も、受注伝票が正しく入力されておりさえすれば、一切の人為的なミスなく、正確に売掛金に反映され、適切なタイミングで回収管理の対象となる。極めて初歩的なはなしだが、正確な売掛回収の実施こそ、キャッシュフロー改善の第一歩だ。

 さらに、「キャッシュ・マネジメント」の回にみたように、企業グループ内で必要以上の余剰資金を持たないためにも、取引先に対する売掛や買掛を統合的に管理する仕組みの貢献度は大きい。

 加えて、海外製ERPでは、「m日以内の入金であれば、請求金額のx%を自動的に割り引く」(mおよびxは任意の数値)機能を実装しているものも多い。日本と異なり、月締め払いの商習慣がない海外の国々では、得意先に一定額の値引きを提供する代わりに入金サイト(注1)を短縮するということもできるのだ(金利との見合いで適切なレートを設定する必要がある)。

2)利益率の向上

 『経理以外の人のための日本一やさしくて使える会計の本』(ディスカバー携書、久保憂希也著)に、ある商品を1万円で80個(売上80万円)売るのと、9千円で100個(売上90万円)売るのと、どちらが儲かるかという例題があった。

 正解は「仕入れ値による」だ。例題では、仕入れ値(原価)を8千円で試算し、売上を10万円プラスしても、粗利ベースでは6万円のマイナスになるという例を上げているが、実はこのケース、仕入れ値が5千円を下回る場合には、9千円で100個のほうが儲かる計算になる(注2)。

 値引き権限の範囲や承認ルールは企業によって様々だろうが、値引きの可否や適切な値引き幅の判断には、常に最新の仕入れ値を把握しておくことが重要となる(注3)。ERPであれば、仕入れ納品(自社生産の場合も同様)の都度、在庫に対する単価の書き換えが行われるため、営業部門や管理部門が、最新の単価を確認しさえすれば事足りる(注4)。

注1)入金サイトとは、得意先に売掛請求をおこなった後に、実際に入金がおこなわれるまでの期間のこと。仕入れの場合には支払いサイトとなる。入金サイトを短くし、支払いサイトを長くすることが、キャッシュフロー改善の王道となる。
注2)やや、蛇足な説明かもしれないが、自社開発のソフトウェアを販売する(ERP営業はまさにこのケース)等では、製品1個あたりの原価がひじょうに小さくなるため、粗利を考慮せず、ほぼ売上の多寡だけを見ていれば良いというのは、この典型的なケースだ。
注3)仕入れ値が頻繁かつ大きく変動する商品であれば、変動幅を監視し、閾値を超えた場合、プッシュ型で情報発信するような仕組みがあると、より効果的だ。
注4)在庫への単価反映方法(会計的には原価計算方法と呼ぶ)は、総平均法や先入れ先出し法など各種あり、細かい計算方法は異なるが、目下、受注しようとしているものの仕入れ値がいくらになるかを把握できるというメリットには違いはない。

(「バック・エンド-2」に続く)

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