ERP会計:3-1 キャッシュ・マネジメント・システム(前編) プーリング

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 前回扱ったカネボウ粉飾決算(循環取引)では、実態のない取引を在庫の積み増しで隠蔽した点に注目したが、一方で、架空とはいえ会計処理をしていたわけで、ある期間経過時には支払いが必要になる。前出の『粉飾の論理』によれば、カネボウと循環取引の主たる相手先である興洋染織の間で、お互いに150日(約半年だ!)を決済日とする約束手形を振り出す。それを割引により現金化し、原料代や人件費にあてる。さらにカネボウ側は、商社との間で、決済期日の来た約束手形分に相当する買い戻し売買をおこない、そこに手形を付け替えるという処理をしていたとのことである。
 このように恣意的に資金移動をおこなうことを許すものと対局をなすのが、今回より扱う「キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)」である。コトバンクによるCMSの定義では「グループ企業の資金を親会社や中核会社が同一銀行内に専用口座を設置し、集中管理することにより、効率的な連結運営や資金運用をする手法、またはそのシステムのこと」とされている。言い換えれば、個社単位でなく企業グループレベルで資金を一元的に管理することで、キャッシュを寝かさないということだ。
 前編では、CMSを扱う際には最初に語られることの多い「プーリング」を見てみよう。名前の通り、資金をプールするということだが、具体的にどんな効果があるのか?
1) 事務処理の一元化による規模の経済: 入金や支払管理をおこなう担当者を、企業ごとにおいていたものを集中化することで、事務処理の効率化をおこなうことができる。専門性の高い業務のため、個々の事業会社ではジョブローテーションに乗せることも難しいのに対し、グループ全体でナレッジ・スキルを共有化することで人材配置の効率化という効果も期待できる。
2) 資金調達絶対額の圧縮: 個人レベルでは、クレジットカードの支払い時などに、銀行口座間で資金の移動をする等ということもよくあるが、そういったことをグループ企業レベルで実施するイメージである。たとえば、生産会社では原材料の納入先に1億円の支払いをしなければならない、一方で販社では得意先から1億2千万円の入金があったとする。個社別に資金管理をしていたとすると、生産会社は何らかの方法でこの1億円を用立てなければならない。仮に借入資金を使ったとすれば、その分の金利がかかる。が、グループ全体としては、販社に1億2千万円のキャッシュがあるわけだから、これを用立ててもらうことで、グループ全体での資金需要は大幅に圧縮されるという仕組みだ。
3) バランスシートの圧縮: 在庫で見たのと同様にキャッシュが寝ること自体が「悪」である。資金調達額が圧縮できる=バランスシートの圧縮であり、グループ全体としての経営効率があがるということになるわけだ。
 次回は、CMSの2番目の仕組みとして「ネッティング」を取り扱いたい。

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