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光男の枠下人生〜第5章〜殺陣とカラテとシャルウィーダンス

光男はネットでのジモティ的な媒体を「じゃまーる」と勝手に呼称していた。そんなことはさておき、光男が探していたのは「殺陣」のサークルだった。
幼い頃から特に忍者モノが大好きで、夜中に彫刻刀片手に手拭いをほっかむりして、人様の畑の中を疾走する奇行を繰り返していた程だ。
将来はJACに入ってデューク真田みたいになるのだと夢見ていた。
しかし、たまたまリアルタイムで視たJACの夏合宿ドキュメント番組にて、俳優デビュー前の井原剛志さんが極真空手の師範にボッコボコにされるシーンを視てとっても痛そうだったのでその夢は諦めた。あんな下段パンチを腹部に食らいまくったらたまったものではない、ずっと悶絶しまくりじゃないか、あれを乗り越えないと忍者スターになれないのであれば即刻諦めよう。
それはもう仕方の無い事で、真夜中に畑を荒らし回っている割にはそこまでの情熱が無かったというだけの事だった。因みに大槻ケンヂさんが大山倍達著書「地上最強への道」の解説にて、自身も極真空手を習ったものの「蹴りがお腹に入った時にとっても痛かったので辞めた」と言っていて、とても親近感を覚えた。
それに、当たり所が悪ければ一生後遺症が残るハズだ、アクション俳優に限らず、様々な競技の格闘家だってそうに違いない。その覚悟無き者には向いてない厳しく貴い世界でもあるのだ。
そのため臆病な光男の選択は概ね正しかった事になる。
正面切って闘えないのであれば、光男は危機回避こそ最大の護身術であると考えていた。
それはスーパーの警備員のバイト時代によく学んだ事である。
それはサーチ能力である。遠くにヤベー奴が居ても察知する能力だ。しかしながら警備員としての責任は全うしなければならず、逃げる訳にも行かない。
ある日、レジ係の若いコがそのヤベー奴に絡まれそうな空気を察知し、わざとレジの近くに現れ、レジのコに軽く会釈した。
とっかかりを無くしてしまった輩風の男性客は不機嫌そうに舌打ちし、レジを済ませた後にこちらに向かいながら話し掛けて来た「おいオマエ!俺なんかしたかぁ?え?」と。光男は咄嗟に男の左側に並ぶように身を寄せ、軽く腰に手を回し満面の笑みで「いえいえ、そんなことございませんよ、たまたま巡回していただけですよ、ありがとうございました、またよろしくお願いいたします」と店の外に誘導した。
この、さりげなく横に付き、腰に軽く手を添えた理由はいざ相手が暴れ出したら地面に倒して抑え込む準備をしていたからである。
光男は中学生と高校の途中まで柔道をやっていたので、組んでさえしまえば負けない自信があった。そりゃあMMAの選手レベルには何やっても勝てやしないが、こんな片田舎のイキったヤンキーなど話にならないと思っていたし、レジのコにカッコを付けておけばワンチャンアバンチュールな展開もあるのではないだろうか?というエロパワーで普段は臆病な光男も性欲が絡むとエンペラータイムに入るという特性が有った。
今になって考えてみれば、そういうしごきや修羅場を潜り抜ければフェラチオチャンス!みたいなのがあれば光男も夢を諦めてなかったかもしれない。
そうだ、だからこそキンタマだけはぶっ潰されないように生きて行こうと光男は神前に誓ったのであった。
さて、「殺陣教室」だが、光男は長年の愚かしい数々の経験上、先が見えてしまった。
それは、絶対に孤立するということだ。そんで自分より一回り年下の片岡愛之助似の師範が爽やかなんだけど光男には少し塩対応で「じゃあ、そっちでやっててください、じゃ!」みたいな感じでひたすら素振りだけやらされてそうな惨めな末路を想像した。
当然、飲み会にも誘われる事は無い。女子も何人も居るが誰一人光男の目を見て挨拶はしない。徹底して絶対に関わらないオーラを出している。
休憩中の雑談が5m先から聞こえてくるが、それは自分と同世代のスターの殺陣の話であった。その言葉の向こうには「それに引き換えなんなんだよあの迷い犬みたいなおっさんw何者でもないくせに髪の毛後ろに結んでてクソ寒いよなw志村けんのだいじょうぶだぁ時代の志村けんに謝れよなw」と言われている様でとてもじゃないけど馴染めないと想像してしまった。
きっと光男にはそうやって何処かのグループに入って何かを一緒にやるという事がとてもコンプレックスなのだ。仮にそこに入ったとしよう、すると必ずと言っていい程、自分より半年位前に入った同世代の調子のいい、押し出しの強いチャラいオッサンがある意味で場を占拠していたりする。そんなチャラオジサンに即刻絡まれ、
「あれぇ?なになに?新人さん?」みたいなのが光男にとっては一番苦手なタイプなのだ。チャラオジサンは女子達とも世代を超え結構な人気者で「あれ?今日はナオちゃんは来ないの?」A子「今日は来ないけど私じゃ不服なの?」
「不服じゃないよ子猫ちゃん、かかってきんしゃい!」(一同大笑い)
みたいな、月曜ドラマランドみたいなウンコみたいなノリだったらきっと生き地獄なのだろう、こんなものに数万円支払うのかと。
さらにチャラおじさんは光男にぶっこんで来るだろう。
「え?剣道経験無いの?あ、柔道ね、、、まぁ、頑張りましょうwww」
みたいな、何かを匂わすような物言いで潰しに来るだろう。
光男はひたすら平素に「なんだかすいません、すいません、、、」と頭を下げるしか無かった。もう、こうなってしまうと「ナオちゃんおはよう!こないだは、あざまぁす!」みたいにはなれない。パーソナルスペースは一生埋まらないだろう。かといって最初から言いたい事言うパターンでもチャラジジイと言い争いになり「なんだか変な人入って来て怖いので私達辞めます」になるだろう。
そして、そもそも光男のこの妄想自体が人として終わっている。
「なぁんでアナタはなんでもかんでも性欲有りきで物事を考えるの?」と、
カウンセラーも呆れかえるだろう。
「だって、シャルウィダンスの役所広司さんだって多少の妄想は有ったからこそ面白おかしく、素敵な映画になったではないか!」と光男は言いたかった。しかし今はどうやら時代が変わってしまったようだ。
(いや、そういう問題じゃ、、、)そういう魂胆がある時点で「マジヤベー奴」認定される世の中だ、ったく、それはチンポコでも切り落とせって事なのか?と光男は思った。
ちなみにチャラジジイは土建屋の倅で風俗三昧を満喫する位の金持ちなのである意味公私混同しない大人といえば大人の男性だったので女子からも警戒されなかったのであろう。光男みたいなタイプがサークルにとっても一番厄介なのかもしれない。
そんなわけで十分にそんな結末が分かり切っているのにわざわざ迷惑をかけにいくのも違うなと光男は思い諦めた。
ただ、究極、座頭市はやってみたかった。仕込枝で逆手で、高速で刀をスピンさせてバッタバッタと敵を倒してみたかった。
そういうのを会得したら老人介護施設などにボランティアで行くのも悪くないと妄想した。ま、同時に若いヘルパーさん目当てだったりもする抜け目のない光男であった。「アタシも斬られた~いwなんちゃって、テヘ!」なんて言われた日にゃもうそれはフェラチオ確定!だろう。
季節は11月、吹きすさぶ風がペラペラの偽MA-1を着た会社帰りの光男の体温を奪って行った。「さぁて、今日はドンキで塩唐揚げ弁当とストロングゼロ買って帰ろう、そして夜8時前なのにひっくり返って気絶したまま眠ってしまおう!そして夜中に目が覚めたら今晩のお相手はカラテ女子が蔆濁されるシリーズにしよう、エヘヘ、エヘ、、」と独りニヤケ顔でドンキに入る光男であった。バンドがやりたいのか、ベースをやりたいのか、はたまた出来る訳もない座頭市をやりたいのか、「一体何がやりてぇんだ、形変えてしまうぞ!」と、長州力に叱られてしまいそうな50歳を過ぎてもフワフワフワフワしている光男の未来は相変わらず前途多難だ。







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