お試し移住でもワーケーションでもなく。
今年4月に宮城県美里町の地域おこし協力隊となってから、僕はこの地元の移住・定住促進を活動のひとつにしている。東京で暮らしていた3月までの経験を活かしながら、おもに都会の人と地域の“関わりしろ”をデザインするような仕事である。着任前から興味があったことに今こうして取り組めていることには、幸せを覚えなくてはならない。
これまでの美里町は、特にこれといった施策を見せてこなかった。たとえばお試し移住だとかワーケーションのツアーだとか、あの手この手で人を呼び込むほかの自治体を尻目に、町を売り込むような仕組みや発信は皆無だったのだ。今の時代においてこれはピンチだと思いつつ、地元出身の自分ができるチャンスだとも思いつつ、僕は今年の着任を迎えた。そして現在、ほかの地域の取り組みも参考にしながら、来年度に向けて町の職員さんと新たな制度を練っているところである。
しかしながら、たとえば今さら「お試し移住」と銘打って発信するものはいかがなものだろうか、と思い始めている。皆無だったこれまでよりはマシになるだろうが、今のほかの自治体の轍を追っても仕方ないような気がしてきた。もちろん、美里町ならではのコンテンツで差別化できるだろうとも思ってはいる。ただ、“周回遅れ”の現状で、いわば“後出しじゃんけん”ができるせっかくの機会に、逆転勝利を目指さない選択肢はないような気がしている。
つまり、移住が前提のお試し移住でも、仕事と休暇を両立するワーケーションでもない切り口で、発信に個性を持たせたいのだ。コンセプトとしては「ただただ、地方に在る」というようなイメージ。より多様な生き方が見られる現代において、地域との関わり方ももっと自由になるはずだ。地域側から移住を促すようなことはもってのほかで、たとえば、ただただ地域で時間を過ごしてもらうこと。そんな新たな取り組みに、価値が芽生えるような気がしている。というか、少なくとも今の僕はそう信じたいのである。
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