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逆噴射小説大賞応募作(20-21

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冒頭800字で脳細胞を揺らす文学賞「逆噴射小説大賞」に応募した作品です。現在3作品。参加するたびに増えると思います。
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#逆噴射小説大賞2022

CHEF

CHEF

 皮を剥いた玉ねぎを輪切りにする。分厚すぎると火の通りが悪くなるが、分厚いほうが美味い。料理には常に選択の苦しみが付きまとう。小麦粉は水でなく冷蔵庫で見つけたビールで溶いた。こうすることでさっくりとした衣になる。隠し味は砕いたスナック菓子(チリ味)だ。これが食感にもおいても、味にもおいても、良いアクセントになるだろう。片手鍋に油のプールを作り、火にかける。プールがジャグジーに変わったら、そこへ衣を

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C-Food

C-Food

 その男がレストランに現れた時、店にいた全員が確かに雷鳴を聞いた。客たちは慌てて窓の外に目をやったが、そこには美しい夕焼けがあるだけだった。それから彼らはようやく闖入者に気がついた。
 濡れた男だった。たった今、海から上がってきたかのように全身が濡れている。男の格好はどう見ても船乗りだったが、それがさらに彼を「異物」に見せていた。この町が漁業で栄えていたのは昔の話だ。今は世界中から人々が訪れる美食

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