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ツヤを失った髪の毛

社内活動として「部活」を始めた。

文芸部活動として、今回の活動内容
→言葉くじ引きして引いたキーワードを使い短編を書き読み合う。


今回、くじで引いた言葉は

・ツヤを失った髪の毛
・子供の頃から変わらない

以下、雰囲気ものですのであしからず。

※※※

晴れた日の午後には必ず決まって見る事ができる。

それは,子供の頃から変わらない自分にしか見えないものなのかもしれない。

でもそれは、他の人から見るとどのように映り込むのだろうか。けして同じようには見えていないのだろうと思っていたが,ある日の午後それは違うという事がわかった。

自分の子供の頃は、鏡を見るのは決まって朝だった。

学校へ行く前に洗面台の大きな鏡か,子供部屋にあるクローゼットの扉裏に貼られた小さな鏡だった。そこでドライヤーを使い前髪を立ち上げ,スプレーでかためるのが毎日の日課だった。うまく決まらない時のもどかしさは今も昔も変わらないものだ。洗面台の蛍光灯に照らされると髪の毛も肌も青白く見える。子供の頃には見えていなかったと思う。変わらないと思っていたものは決して、子供の頃にはなく大人になって初めて見る事ができるものだったと知り得ることになる。

妻は良く洗面台で覗き込むように見ている。

早く染めなきゃと言わんばかりにこちらを見てくる妻は、どうやら白髪が気になっているようだ。そもそも白髪が生えてくるとどうしても根元だけが目立って見えてくる。ましてや洗面台の青白い光はよりその白髪を引き立ててくれる。年を重ねる事の喜びもあれば,悲しい事もあるものだ。月に1度は訪れる洗面台での悲しい様子を見る事は、もはやルーティーンとなってきている。

電車に乗り家に帰る。

帰る時間帯は決まって夜10時くらいだ。いつもの時間のいつもの車両。そしてそこに乗り合わせる人たちも数人は顔を覚えてきた。そのなかの1人に40代前半の女性がいる。髪の毛は鎖骨につくほどにきちんと切りそろえられている、とてもツヤを感じる髪の毛だ。肌の質感を見る限りでは40代。だけど後ろ姿をとしてみる髪の毛にはツヤがあり、20代後半にも見える。ツヤのある髪の毛は人間を10歳以上も若返らせる事ができる。ついつい白髪がどこかに生えていないか探してみるがどこにも見当たらないところ、彼女の美意識の高さを感じる事ができる。

ツヤを失った髪の毛を見るとしたら、それは洗面台で白髪を見る妻か、手入れの行き届かない疲れた女性の後ろ姿だろう。それは、自分の勝手な推測でのはなしになるが帰宅時間には既にツヤを失っているのだろう。


子供の頃に見えなかったのはツヤではなく白髪だ。自分にしか気づかない事だと思っていたものは、他人からも見る事ができ、他人は勝手に推測しそして勝手に決めつけている。ツヤのない髪の毛だと。


おわり


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