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『ベストSF2021』大森望(編)

新たな日本SF短編年間ベストアンソロジー《ベストSF》シリーズの第二巻となる『ベストSF2021』をお届けする。二〇二〇年(月号・奥付に準拠)に日本語で発表された新作の中から、「これがこの年のベストSFだ」と編者が勝手に考える短編十一編を収録している。
――大森望「序」より

サイエンスといより、少し不思議的SFオムニバス。作者あとがきで、これがSFだと初めて知ったというコメントが続いたのにウケた。

一番好きなのは、伴名練「全てのアイドルが老いない世界」。2位が柴田勝家「クランツマンの秘仏」、3位が勝山海百合「あれは真珠というものかしら」と麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」。5位が藤野可織「いつかたったひとつの最高のかばんで」。

アタリが多かった印象だが、麦原遼という作家を知れたのが、この本最大の収穫。単行本が待ち遠しいよ。

以下個別感想。

伴名練「全てのアイドルが老いない世界」

エナジードレインで生きてる生物が政府管理の元アイドルとしてなら生存をゆるされる世界のお話。

もう設定が最高で、主人公が真祖吸血鬼みたいな存在なのに超真剣にアイドル活動してるギャップが面白い。ファンから寿命をもらうので、真摯に生きてるところが健気。

ファンがアイドルの養分なのは現実と変わらないのだが、現実は金が吸い上げられても、アイドルに直接届かない。事務所に抜かれ、アイドルの収入になったとしても、恋人に使われるかもしれない。
しかしこの世界では自分の命が直接アイドルに届く。アイドルの血肉になれる。圧倒的に報われる。この世界観に一番痺れた。

柴田勝家「クランツマンの秘仏」

信仰心は質量を持つのでは? というおもしろ科学モノ。ご開帳されない秘仏に、本当にあるのかよ、と疑問を持ったことがある人に刺さる(笑)

一人の科学者の歴史とともにこの説が開陳されてゆくが、普通に説得されてしまいそうになるほどリアル。異常論文集も読みたくなったので読むリストに追加。

勝山海百合「あれは真珠というものかしら」

海辺の青空学校にケルピーが転入してくるお話。

どこまでも上品で清々しい。渋澤 龍彦の『高丘親王航海記』を思い出した。
勝山海百合作品は何作か読んだが、これが一番好き。オチも多段でやられた感が最高。任務頑張って頂きたい。

ちなみに、本作が第1回かぐやSFコンテスト大賞作品。素人も応募可能なやつだったが、太刀打ちできねーぜという感想しかない。

麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」

ジムで筋トレしてる間に脳のリソースを提供することを仕事と呼ぶ世界のお話。
仕事中の記憶も封印されるので、気がつくと筋トレもおわりヘトヘトになっている。仕事が忌避される風潮もあるが主人公はのめりこんでゆく。

風刺が効きすぎてて笑いしかないが、よくこんな狂ってる世界を書いたなと感動する。オチも真にグロテスクで素晴らしい。

藤野可織「いつかたったひとつの最高のかばんで」

鞄会社の派遣社員が行方不明となり、その部屋を調べたところ数え切れないほどの多種多様な鞄がでてきて、その会社の派遣社員たちが一つずつもらってゆくお話。

藤野可織なのでいつホラー展開になるのかとドキドキしながら読んだが、そんな展開はなかった。普通に不思議なお話。竹中平蔵のもたらした世界を軽く批判しつつ、落ちも強烈で笑った。男女平等やジェンダーとはなんぞやを考えさせられる。あとがきも最高に笑える。私怨100%やんけ(笑) 

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF

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