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『ロンドン・アイの謎』シヴォーン・ダウド(著)越前敏弥(訳)

12歳のテッドは、いとこのサリムの希望で、巨大な観覧車ロンドン・アイにのりにでかけた。テッドと姉のカット、サリムの三人でチケット売り場の長い行列に並んでいたところ、見知らぬ男が話しかけてきて、自分のチケットを一枚ゆずってくれると言う。テッドとカットは下で待っていることにして、サリムだけが、たくさんの乗客といっしょに大きな観覧車のカプセルに乗りこんでいった。だが、一周しておりてきたカプセルに、サリムの姿はなかった。サリムは、閉ざされた場所からどうやって、なぜ消えてしまったのか? 人の気持ちを理解するのは苦手だが、事実や物事の仕組みについて考えるのは得意で、気象学の知識は専門家並み。「ほかの人とはちがう」、優秀な頭脳を持つ少年テッドが謎に挑む。カーネギー賞受賞作家の清々しい謎解き長編ミステリ!

傑作ジュブナイルミステリィ。ミステリィとしても高得点だが、家族ドラマとしても100点満点! 美しくて感動してしまった。子供も親も楽しめる超オススメの一冊。

お話は、もうすぐニューヨークに旅立つ母子が、主人公一家の家に泊まりにきて、ロンドン観光で巨大観覧車に乗りにゆく。子どもたちだけでチケット売り場に並んでると、知らない男がチケットを1枚だけ譲ってくれ、客で従兄弟のサリムに譲ったところ、1周しても観覧車から降りてこず失踪、行方不明になってしまう、というもの。主人公とその姉が責任を感じ捜査に乗り出すも…。

ミステリィは、21人乗り込んで、21人降りたのに、サリムが消えた、という所。ロンドンの治安は良くないし、サリムは有色人種だしで、自発的に消えたのか、犯罪に巻き込まれたのか判別できなくて普通にドキドキする。

そして珍しいのが、主人公テッドが自閉症という所(作中では症候群としか書かれてない)。その上で、自閉症をテーマとしない所が凄い。
コミュニケーションの歯車がずれると、「んんん」とフリーズしてしまったり壁をけったりしてしまうが、左利き、という程度の扱い。家族も相応に悩んでいるが普通に扱うところが本当に尊い。姉も普通に横暴で笑ってしまった。そのせいで主人公から友達カウントされてなくて余計笑える。

その主人公がサリムを探すべく捜査するのだが、なにせお客の従兄弟が行方不明なので、警察は来るし、サリムの母は泣き崩れてるしで、お通夜以上にいたたまれない空気に満ちてる。誘拐の可能性もあるので、子どもたちだけで外出して捜査など許されない。なので嘘をついて外出するが、それがより一層怒りを買ったりしてゆき、空気がどんどん重くなってゆく。
平時は比喩を理解できない主人公も余裕をもって相手してもらえるが、大人に余裕がなくなると、「黙って」と言わざるを得なくなってくる。
後半、主人公が謎を解くのだが、家族が話を聞いてくれない、というあるいみ詰んだ状況も新鮮で良かった。
その後、謎は解けても事件はまだ解決しない、という濃厚な終盤も良かった。文句なし。

重そうな話に見えるが、これらを軽く楽しくあっさり描いている作者の手腕に脱帽。モーターショーに捜査にいったのにスクーター体験会に行ってるお姉ちゃんとか最高。
なので、作者がもう亡くなってるのが本当にショック。このシリーズは追いたかったのに! 続編は代筆で出るらしいのがせめてもの救いだが。とりあえず他作も全部読もう。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #ミステリィ

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