読むと唆界に落ちる『驚愕の曠野』筒井康隆(著)
幾層にも夢見られ、語られ、発見された書物の中の書物。その内なる広野で悪夢の旋律に踊る人間=魔物たちの繰りひろげる、終末のファンタジー。
構成がえぐい。小説とはなんぞや、という問いが剛速球で飛んでくる。
というのも、数百巻ある本の折り返し地点からお話が始まるからである。しかもそれを音読してるお姉さんが若干のネタバレまでしてくる。はたして自分は何を読まされているのか、という気分ちになるが、語られるお話は殺伐としているがさすがの筆力で引き込まれる。
未来のような過去のようなほぼ滅んだ世界で、塩漬け肉だけをたよりに砂漠を旅してゆく男たちのお話で、よくわからない不気味なものと戦ったり逃げたりしている。しかし読んでいるうちに、それが繰り返されていることに気づく。死んでは生き返る。しかし同じ繰り返しではない、どんどん悪化してゆく。というのが、作中に出てくる本に書いてある。その本は冒頭でお姉さんが読んでいる本であり…と世界が明らかになってゆく。
この最悪な輪廻転生、というか、蠱毒というか、魂を煮詰めてゆくような世界が気持ち悪くて怖い。冒頭のおねえさんや子供たちがこうなってしまうのか…と暗鬱な気持ちになる。しかしよく考えると、この本を読んだから、この世界に入ってしまったのでは? ということは、それを読んだ人もこの世界にはいってしまうのでは? 自分は死ぬと唆界にいくのでは? という想像が一番ホラー。
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