『日本SFの臨界点[恋愛篇]&[怪奇篇]』伴名練(編)
表紙はキャッチーだが、内容はいぶし銀。
恋愛篇、怪奇篇と銘打たれてるが、あまり関係なし。埋もれた作品を世に出すのが第一目的らしいので、そこそこSF読んでる人向けに感じるが、恋愛篇がわりとベタで、怪奇篇が変化球かな。怪奇篇のほうが好き。
以下好きなのピックアップ。
恋愛篇
生まれくる者、死にゆく者 / 和田毅 著
人が無から生まれ、無へと還ってゆく世界で、死にかけのおじいちゃんと、生まれかけの孫が出会える確率のお話。
世界観が素敵。死にかけるとだんだん見えなくなり、存在を知覚できなくなってゆく。逆に子供はだんだん見えるようになってきて、ある日突然子供になる。確定するまで何年もかかるので、赤ん坊期間すっ飛ばしてるのが面白い。
G線上のアリア / 高野史緒 著
もし中世ヨーロッパに電話があったら、というお話。電脳世界まで行き着いていてスケールが大きい。
バロックパンクという趣が新鮮。ハッカーどうしの戦いを見てみたかった。あと、免罪電話に噴いた。
本筋も良かったが、人気歌手の主人口が、作曲家は楽譜が歴史に残ってが羨ましい、という話の顛末がめちゃくちゃ美しかったので引用。
ムーンシャイン / 円城塔 著
追われる少女、ホワイトボードを囲む教授たち、拳銃をもたされ敵を牽制する私。
共感覚が連鎖する、というアイデアが面白いし、多重人格の次元をこえた数学世界を精神に内在しているスケールが凄い。その中のひとつの数字と会話するのだが、ある意味ファーストコンタクトものでは。人間由来だが、別次元の生物という感じがする。少女が向かう次の世界は人の意識すらなさそうで美しい。
怪奇篇
DECO-CHIN / 中島らも 著
音楽ライターの主人口が偶然出会ったフリークスバンドに魅入られるお話。
しょっぱなから凄まじいインパクト。さすが怪奇編だぜ。
実は中島らも初読みだが、業界の人が書く文章が生き生きしてて楽しい。
お話のラスト、大団円で終わったが、でも違うんじゃない? フリークスは好きでやってるんじゃないし、もし生まれ変わってもフリークスになるか? って聞かれたらNoだと思う、とか色々考えられて面白い。
黄金珊瑚 / 光波耀子 著
海辺の街で偶然見つかった黄金の樹がどんどん成長し、人を支配してゆくお話。
ホラー枠。クトゥルフみがあって良い。絵面も美しいし。
60年代の作品としり吃驚。
ちまみれ家族 / 津原泰水 著
すぐ怪我し、すぐ流血する家族のお話。
津原泰水がギャグもかけるわい、といって書いたらしいが、先生、センスゼロです(笑)
津原泰水がこんなのも書いてた、という資料的価値はある。
五色の舟とか読んだ後に読んではいけない。
笑う宇宙 / 中原涼 著
とある部屋の中、長男は宇宙船の中だといい、妹は地下だという。両親はどちらともいえない態度を崩さず…。
終始リドルストーリーみたいなヤキモキが続く。さらに閉鎖空間の狂気がつらい。家族なのも余計辛い。さらに答えがないという。。。
雪女 / 石黒達昌 著
低体温症で記憶喪失の女性を治療し、記憶を取り戻そうとする軍医のお話。
架空論文系SF。低体温症と雪女の伝承を絡めているが、真に迫っており素晴らしい読みごたえ。終盤の展開がおぞましくも切なくてよい。
頭良い人の文章で大好き。他作も読むリスト入り。
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