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『銀色の国』逸木裕(著)

足の甲を切る自傷行為と「もうだめ。死にたい」というツイートを繰り返す浪人生のくるみ。ある日、突然フォロワーのひとりからDMが届き、ネット上の自助グループ“銀色の国”に導かれる。一方、自殺対策NPO法人の代表として日々奔走する晃佑のもとには、友人が自殺したという悲報が届いた。元相談者でもあったその友人が今になって死を選んだ原因を調べるうちに、晃佑はある恐ろしい計画の一端に辿り着く…!!横溝正史ミステリ大賞受賞作家が放つ、現代の闇「自殺」に迫る鮮烈なミステリ!!

自殺に迫るとあるが、自殺というより、自殺にいたる心理のお話。借金が、失恋が、就活が、といった悩みでも死には至るんですよ、という観点。余命いくばくといった人は出てこず、尊厳死とかそういった方面には踏み込まない。

しかし、そもそもそれはメインテーマではなく、本筋は、人を自殺に追い込むVRゲームのサスペンス。それを作り、集団自殺を計画する犯人に誘拐された人、そのゲームに招待された少女、自殺対策NPOの人たち(これの代表が主人公)、それぞれの視点で物語が紡がれる。はたして犯人にたどり着けるのか、集団自殺を止められるのか、結構ドキドキのエンタメ作品。

主軸以外にも、NPO内の人間ドラマも面白い。NPOの自殺相談アプリを作った元ゲームエンジニアの話は胸くそ悪く、自殺関連と相まってイヤミスぎみだが、主人公がどこまでも果てしなく良い人なので、だいぶ緩和される。とはいえ、エンジニアの過去の事件が原因で、NPOの女職員が、このひとに対し、かなり厳しい対応をしてるのが気になる。この態度が原因で気を病んで自殺するかも、とは考えないのだろうか。自殺対策NPOなのに。しかし自殺対策NPOでも死ねばよいのに、と思うことはあるよ、という意味なのかもね。人間だもの。

警察でもなんでもないNPO代表の中年が、調査してゆくのが面白いのだけど、この主人公が底抜けに良い人だからこそ、手がかりが得られたりするのが上手い。この展開がなかったら犯人に至っていないので、この話運びにはしびれた。

ラストは宮部みゆきの火車を裏返したような感じで、甘いが爽やかで良かった。

また、今回悪役にされたVRだが、高所恐怖症の治療でも使われたりするので、要は使いようだよ、ということを、もっとちゃんと書いておいて欲しかったかな。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #ミステリ #逸木裕


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