『NOVA 2021年夏号』大森望(編)
日本SF大賞受賞、芥川賞受賞作家から、初小説に挑む日本SF作家クラブ会長、日本ファンタジーノベル大賞受賞、ゲンロンSF新人賞・創元SF短編賞受賞の新鋭まで、10人が饗宴する日本SFの最前線。
「いずれ劣らぬ個性豊かな書き下ろしSF短編を楽しんでいただけるとさいわいです」大森望
ラスト4編が特に良いが、斧田小夜「おまえの知らなかった頃」が圧巻。これが新人だなんて。割と力業のお話だが、ハイテク、復讐、ファンタジー要素が相まって面白い。
また、乾緑郎の機巧のイヴは未読なのに番外編を読んでしまった。イヴが活躍するであろう本編が読んでみたくなるではないか。
坂永雄一「無脊椎動物の想像力と創造性について」
市内全域を無数の蜘蛛の巣に覆われた古都、京都の全面的な焼却が決定された。
こんな事態になったら、アメリカやロシア、中国なんかは絶対核を打ち込んでくるよね、という想像でラストの余韻が消えてしまうのが残念。
野崎まど「欺瞞」
最も高等かつ極めて高尚な精神を獲得した神に近しい生命の一個体への愛の手記。
阿保過ぎて笑った。割と序盤からオチが読めるのだが、結末は予想の上を行く(笑)
しかしなかなか考えさせられる。悟りを開いた人と刹那的な人、どちらが幸福だろうか? どちらが楽しいか、だと間違いなく後者なんだよね。
斧田小夜「おまえの知らなかった頃」
遊牧民の語り部と天才プログラマーの間に生まれた少年よ、おまえの母の成した秘密を語り聞かせよう。
不遇の天才プログラマーが世界に復讐していくお話で、近未来の中国が舞台。さらに伝説の獣が出てきたりとファンタジー要素もある。誰かわからない語り部が、主人公の息子に語る形で物語がつづられる。
息子が掘り出した金色の像が喋るという展開にわくわくし、平行で語られる主人公の復讐とそれらが一つに集約してゆくところが快感。蹂躙劇はスカッとするものの、旦那の親類もいるのでは? とドキドキしてしまう。
あと気になる点は、新疆ウイグル自治区を舞台にする意味。民族浄化にはほとんど触れない。逆に大したことなかったかのような印象さえ受けてしまう。プロフィールによると中国でも働いていたとの事なので、リアルな情景を描いてほしかったなぁ。
酉島伝法「お務め」
ランタンの灯る居室を出、果てしない廊下を巡り、今日も食堂へ。美食に舌鼓を打ち続ける男の任務。
この人、普通に面白い話もかけるのかとびっくり。見事な短編。
窓もない地下で、食べて寝て診察を受けるだけの人生を想像すると発狂しそうだが、その繰り返しを通して真相が見えてくるのが楽しい。毒見は別に用意しとけよ思わずにおれない。
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