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『最後の三角形』ジェフリー・フォード(著)谷垣暁美(訳)

アコースティックギターの調べは、ぼくの目の前に金色の雨として現われる。指で絹をなでたときには、レモンメレンゲの風味とねっとりした感触を舌に感じる。ぼくは「共感覚」と呼ばれるものの持ち主だった――コーヒー味を通してのみ互いを認識できる少年と少女の交流を描くネビュラ賞受賞作「アイスクリーム帝国」、エミリー・ディキンスンが死神の依頼を受けて詩を書くべく奮闘する「恐怖譚」、マッドサイエンティストが瓶の中につくりあげたメトロポリスの物語「ダルサリー」、町に残される奇妙なしるしに潜む魔術的陰謀を孤独な男女が追う表題作ほか、繊細な技巧と大胆な奇想に彩られた全十四篇を収録する。

どれも高レベル! 長編を蒸留したような短編ばかりで濃密。1日1編しか読めず、1冊読むのにめちゃくちゃ時間がかかったが、凄まじい満足感。

本書はジェフリー・フォードのベスト短編集の2冊。1冊目は本業の幻想小説で、それ以外、SFやホラー方面が集められたのが本書。しかしそもそもの土台が幻想的なので、SFやホラーを書いても幻想小説になってる。しかしそれが美しく素晴らしかった。
幻想小説苦手なのだが、稀にあるクリティカルヒット。1冊目も読まねば。

エクソスケルトン・タウン以外全部良かったが(あれはさすがに主人公が非道い)、以下、特に好きなのピックアップ。

アイスクリーム帝国

共感覚を持つ男のお話。共感覚を親に病気だと思われおり、刺激的な事は大概禁じられていたが、ある日脱走してコーヒー味のアイスクリームを食べると、いつもの共感覚とは違い、とある女性が目の前にあらわれて…。

超切ないボーイミーツガールもの。ラスト、2重3重に切なくてたまらない。彼を主人公にしたのが天才的。

最後の三角形

ヤク中のホームレスが老婆の家のガレージに忍び込み、淡々とした優しさにふれ更生してゆくお話、からの魔術のための殺人を老婆と一緒に防いでいく。

序盤のなんとなく更生してゆくところが一番おもしろい。
掲題作なのにオチは弱くて残念。他の話でもそうだが、ラストで驚く展開はあんまりない。序盤から流転しつづけるお話こそがこの人の真骨頂。

ナイト・ウィスキー

酔っ払いを木から収穫するお話。

その特訓シーンから始まるので、意味不明すぎて笑える。ちょっとずつ謎が明かされてゆくのが楽しいのだが、本番当日にまさかの事件がおこり、ホラー展開へ。予想外のギャップで、ラスト、本当に辛いんですけど…。

ばらばらになった運命機械

宇宙を股にかけ大冒険した男の回顧録的お話。

男の唯一の後悔と、死骸の中の歯車をめぐり、物語が展開される。
こーいうのでいいんだよ的大団円。地味に泣ける。

イーリン=オク年代記

子供が作った砂浜の城に住む妖精のお話。

子供が作った城じゃなきゃ駄目という時点でもう最高。
そして、妖精の寿命が一晩という衝撃。
ただ人間でいうと一晩なだけで、妖精的には普通の一生。体感時間が全然違う。城を襲うネズミやカニ、船に住む妖精との出会い、迫る満潮などの様子が、発見された妖精の日記から明らかになってゆく。
もう、本当に、めちゃくちゃ良い!! 只々良い! 本書で一番好き。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #幻想小説

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