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『11月に去りし者』ルー・バーニー(著)加賀山卓朗(訳)

1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に嫌な予感を覚える。数日前に依頼された仕事はこの暗殺絡みに違いない。ならば次に死ぬのは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃れてきた訳ありの母娘と出会ったギドリーは家族連れを装いともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っていた――MWA賞受賞作家の話題作。

装丁からハードボイルド物を予想してたけど、映画的エンタメ傑作。これほど登場人物達が予想を裏切る話はそうそうない。この読めなさが、第十一回翻訳ミステリー大賞の所以だろう。人間の本心とは本当に見えないものだよなぁと痛感させられ楽しい。この著者、他作も必読だな。

主人公はマフィア若手幹部。明るく賢い下衆野郎。組織No.2との何気ない会話から、あれ? 俺切り捨てられたんでは? と気付き、消されるまえに逃亡をはかる。当然追っ手がかかるが、機転で切り抜けてゆく。果たして逃げ切れるか? 追われるもの、追うもの、主婦の3つの視点で物語が語られる。

なんで主婦が? と序盤は訝しむが、ちゃんと話に絡む。というか、もうひとりの主人公。かなり魅力的。追手の殺し屋も主人公といえる。これは3人の生き様、強さの物語だった。皆本当にタフで魅力的。

本の9割近くが逃亡劇で、淡々と不穏さが積み重なってゆき、どんどん追い詰められはするが、とくに劇的に話が動かないので、どう終わるのかやきもきしながら読んだのだが、終盤はこれでもかと畳み掛けられる。エピローグの切なさと格好良さがたまらない。本編と関係ないお姉ちゃんの成長にも感動させられる。

お話もさることながら、ユーモアあふれる会話も高得点。山が昨日より近く感じる。忍び寄ってるようだ。と話かけられ、逃げ切る自信はあるわ、と答えるセンス。これがほぼ初対面の男女なのだから凄い。こんな会話センスが本当にほしい。殺し屋の会話も何度も笑わされた。殺し屋は格言も良かったのでメモっておこう。

フェアな闘いになるとしたら、すでにどこかでしくじっているのだ。

ちなみに、殺し屋も主人公同様組織から切られており、殺される運命にあるところが切ない。主人公は気づいたが殺し屋は気づいていない。

さらに、一人称と三人称が混ざった地の文が面白かった。主人公だけでなく、地の文まで え? って言ってる所は噴いた。混乱っぷりが実によく伝わる。リズムも良いので読んでいて本当に楽しい。訳者の手柄だね。


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