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『この本を盗む者は』深緑野分(著)

「ああ、読まなければよかった! これだから本は嫌いなのに!」
書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。

深緑野分氏の本は2冊しか読んでないが、『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』ともに傑作だったので、新刊も期待して手に取る。左記の2冊がミステリーだったので、てっきり今回もミステリーかと思っていたが、ほんわかファンタジーであった。(ミステリー成分は薬味程度)

私設図書館「御倉館」を中心とした本大好きな町で、御倉館の跡取りで本が嫌いな主人公のお話。御倉館は本の盗難対策として、本に呪をかけており、盗人は物語の中に閉じ込められる。御倉館の主人が、盗人と盗まれた本を見つける必要があるのだが、現主人が事故で入院してしまい、高校生の娘が代理をすることになり…というもの。町が物語の世界観(ファンタジーやらハードボイルドやら)に変容してゆき、知り合いの人たちが物語のキャラクターを演じだすのが面白い。実写でみると楽しそうな演出。

構成が見事で、本の盗難があり、物語の中で冒険しながら犯人を探す、という短編の集まりだが、中盤からかなり変化があり、呪の核心にどんどん迫ってゆく。また、盗難発生時の物語世界だけに存在するキャラなど、いろんな謎があるのも楽しい。

主人公の叔母「ひるね」は生活能力皆無の書痴、というおいしいキャラで、栞子にも読子・リードマンにもなれるポテンシャルを秘めているのに、それをただの脇役にし、普通の女子高生を主人公にすることで、普遍的なお話にしてる。漫画脳としては非常にもったいなく感じる。しかし、主人公の相棒は百合・モフモフ・ケモナーという別の意味で役満なので、それはそれで満足。

また、呪に使われる物語が非常にできが良い。単品で普通に読めそうな物語なのに、ただの舞台装置としてとしか使われず、内容が本編に関わらないのも非常にもったいない。というか贅沢。

全体的に割とベタだが、綺麗なジュブナイルなので、中高生にオススメ。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #ファンタジー

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