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素晴らしい悲劇『バスク、真夏の死』トレヴェニアン(著)町田康子(訳)

全ヨーロッパが異例の上天気を共有したかのような、大戦前のある最後の夏。バスピレネーの温泉町の青年医師、ジャン‐マルクが、町へ静養に来ていた娘、カーチャと知りあったのはそんな夏の1日だった。彼女には双子の弟がいた。弟のポールと彼女は驚くほど似ていながら、印象はまったく異なった。ジャン‐マルクはカーチャに惹かれる一方、ポールの不思議な、悪魔的魅力にも気づいていた。そして美しい夏の終る頃、彼はポールとカーチャを結ぶ奇怪な絆、避けようのない悲劇の訪れを悟るのだが…。『シブミ』の著者の異色スリラー。

爆弾の横で青春ラブストーリーが語られるような、実にハラハラする傑作。年老いた主人公の回顧という形で語られ、医者なのに戦争に志願し、一兵卒として最前線に行きたくなるような青春時代の事件とは何だったのか、じわじわと語られる。

お話は、田舎町で駆け出しの医者と、最近村外れに引っ越してきた一家の少女との淡いラブロマンス。しかし彼女の双子の弟からは、決して父にそのことを気取らせない事、プラトニックを貫くことを約束させられる。しかし主人公は約束を破り彼女に近づいてゆき…。という感じで恋がじわじわ進むと同時に、何故パリからこんな田舎に越してきたのか等、隠された彼女たちの事情も明らかになってゆく。その塩梅が実に見事で、全てが破滅するラストにむけて、13階段のように不穏が積み重なってゆく。文章はこってりしているが、ユーモラスで楽しく、風景も美しい。バスクの祭でそれは最高潮を迎え、読んでいるうちに、読者は登場人物たちを愛してしまう。そこから襲いくる悲劇の衝撃が半端ない。読み終えた後しばらく頭がクラクラした。主人公は医者だけに、救えたかもしれない、と考えてしまうんだろうなぁ。つらすぎる。

以下本編とは関係ないがメモ。

彼らがお茶会で飲んでるテイザンと呼ばれる薬湯が何なのか気になる。ググっても全然わからない。

作中の会話で、人間が生存可能な気温は35度から-25度だというくだりがあって、日本の夏は地獄だな、と再認識した。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説

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