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2023年12月の記事一覧

『夢みる宝石』シオドア・スタージョン(著)川野太郎(訳)

孤独と愛をひしひしと感じる傑作! しかもそれぞれが響き合ってる。すごい。ラストは衝撃の連続で呆然となるが、まさか蟻が伏線だなんて(笑) 甘々だがそれが良いよ。 お話は、養父に虐待され指3本を失った孤児の少年が逃げ出し、カーニバルの小人たちに匿ってもらう。少女に変装し歌を披露しながら暮らしていたが、少年はいつまでも成長しないし、さらにいつの間にか指が生えており…。 タイトル通り、宝石(水晶っぽい)に意識があり、人間には気づけ無い形で文化を養ってる世界観が面白い。 宝石がみる

『奏で手のヌフレツン』酉島伝法(著)

SFで異形なのに朝ドラ! 太陽が地を歩く球状地底世界で、人だけど人じゃない一家3世代に渡る日常と死にゆく太陽が描かれる。ラストのオーケストラ(音楽で太陽を制御してる)の壮大さも素晴らしいが、丁寧な日常描写こそ愛おしい。大満足の一冊。 太陽を失ってしまった集落から、命からがら移ってきた主人公が、差別されながらもなんとか新しい集落に溶け込もうと努力してゆくお話なのだが、世界観インストールがめちゃくちゃ重い。この世界には空がなく、壁があるのみ。遠心力で壁に張り付いてる。そんな中を

『箱庭の巡礼者たち』恒川光太郎(著)

ゆるく繋がってるファンタジー短編集。恒川光太郎なので、いつホラーになるかとドキドキしたが、最後までファンタジー100%。作者インタビューによると、たまたまそんな気分だったそうな(笑) しかし最後の世界、二度と出られないっぽいし、強制リセットかかるしで、『驚愕の曠野』みがあってちょっと怖い。 箱庭の箱はタイトルにもなってるが、存在感がかなり薄いので、ラストに再登場してほしかったな。 お話は、中世風の世界が見える箱だったり、時間を進めることができる銀時計だったり、不思議道具が

『ホープは突然現れる』クレア・ノース(著)雨海弘美(訳)

誰にも記憶されない特異体質のホープと、孤独に戦う元工作員のバイロン、二人の人生が交差する物語。読後、静かなカタルシスとやるせなさで、ちょっと何も考えられなくなった。 ホープが、パーフェクション(フェイスブックの邪悪な上位互換的アプリ)関係者からダイヤを盗んだ事により、パーフェクションに敵対するバイロンと出会い、より悲惨な事態へと向かってゆくお話。 誰にも記憶されない、という特殊設定が本当にえげつない。 ある日、じわじわと他人から記憶されなくなり、16歳で親にすら「誰?」と

『ときときチャンネル 宇宙飲んでみた』宮澤伊織(著)

SFガジェット実況配信小説。地の文なしの潔さよ。 小難しい科学的屁理屈を明るく楽しく配信しており、只々楽しい。 シュタゲでおなじみの世界線は誤用だと知れたり、ためにもなる。 内容はタイトルの通り、宇宙を飲んでみたり、時間を飼ったりする。すごいのは比喩でもなんでもなく、文字通り、実際に宇宙をカップに汲み取ったりするところ。 肝心の手法は、インターネット3と呼んでいる、超上位存在のネットワークを盗み見して得ている。『へびつかい座ホットライン』じゃん…と読んでいて不安になるが(