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2023年8月の記事一覧

『オルタード・カーボン』リチャード・モーガン(著)田口俊樹(訳)

ハードSFでハードボイルド探偵(?)モノ。大好物! ニューロマンサーとブレードランナーを足して割ったような感じ。しかし読み終わると、カウボーイビバップの「浪花節だぜ、まったく」というセリフが脳内再生されたよ。SFだけど人情の物語。清濁併せ呑むエピローグが憎らしい。 舞台は、精神を完全にデジタル化し、任意のボディにインストールすることで不死が実現できてる未来。ただ、これには金がかかり、長生きするのは金持ちで、貧富の差は広がるばかりというディストピア。 そんな世界で、ある金持

『わたしたちの怪獣』久永実木彦(著)

『七十四秒の旋律と孤独』はハードSF寄りだったが、これはエンタメ寄り。短編4つで、怪獣・タイムトラベル・ヴァンパイア・ゾンビとバラエティ豊か。内容も漫画的で楽しく読めたが、目新しさや、読後に残るものがなく残念。 とはいえ、デビュー2作目で、内容よりも文体で新しいことにチャレンジしてる感があるので、まだスタイル模索中なのかも。 ただ、掲題作のラストはちょっとニヤっとなってしまった。 本編と関係ないが、”スマホを閉じた”という描写にひっかかった。切ったも微妙だし、悩ましい。他の

『魔術師ペンリックの仮面祭』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)鍛治靖子(訳)

今回は中編3つ。お祭り、海賊、疫病と、どれもいつも通り壮絶に巻き込まれて面白いのだが、ペンリックたちが苦難を乗り越えてるというよりも神に手のひらの上で転がされてる感が強くって、カタルシス薄め。でも前作の恋が無事実り結婚できてて幸せそうで何より。 神が実在する世界って自分だったら、決定論の世界と同じでやる気をなくしちゃいそうだが、神の導き、奇跡だと考えるペンリックが眩しい。神がいようがいまいがやることは一緒なのだけど、そこに感謝できる人間性が美しい。こんな性格だから魔のデスと