マガジンのカバー画像

感想

362
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

『横浜駅SF』『横浜駅SF 全国版』柞刈湯葉(著)

最高に笑えるシニカルSF。設定がすでに面白いのに、その阿呆な舞台で生きてる人々をシリアスに描くものだからギャップでまた笑ってしまう。 お話は、横浜駅が本州の99%を覆った終末世界で、駅外に住む主人国が18きっぷを手に入れ横浜駅探索に行くお話。しかしSuicaがないので逮捕されたり、JR北海道のエージェントや、反体制組織とと出会ったりしながら、42番出口を目指してゆく。というもの。わりとご都合展開が目立つが、まったく気にならない楽しさ。この42番出口からしてヒッチハイクガイド

『世界が終わるわけではなく』ケイト・アトキンソン(著)青木純子(訳)

『ライフ・アフター・ライフ』が良かったので手に取る。 本書は幻想短編集。抜群のテンポと神話の隠喩が特徴的。長編とは全然雰囲気が違い、明るいタッチ。作者の幅の広さ驚く。 ラストに仕掛けがわかるも、寂寥感でいっぱい。だが、悲壮感のかけらもないのが凄い。この世は通過するだけのものだから、という水木しげるの猫を思い出す。 お話の舞台はどれも現代ながら、日常と非日常がぴったりくっついてる不思議な読み心地。戦争地帯で楽しくショッピングしてる第1話から違和感が半端ない。この不協和音が世界

『ゴースト・ドラム―北の魔法の物語』スーザン・プライス(著)、金原瑞人(訳)

心温まる王道ファンタジーが読みたいな、と思い手に取る。が、全然王道じゃなかった。ファンタジー世界でのホラーな復讐譚だった。 魔女に英才教育された奴隷の子供(チンギス)と、生まれた途端、窓もない塔上の小部屋に幽閉された王子様のお話。ラブロマンスかと思いきやまったく違って、チンギスは王子を魔法使いの弟子にするが、邪な魔法使いが邪魔をし…。と話が坂の下に転がってゆく。 この邪な魔法使いが本当に邪悪で、チンギスとはなんの面識もないし、利害関係もないのに、才能を羨んだだけで殺しにか