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2022年9月の記事一覧

『真夜中のたずねびと』恒川光太郎(著)

今作はホラー成分多め。しかも読後嫌な気分になるやつ。クズ率が高い。個人だけでなく社会も腐ってる。まるで現実のようで気が滅入るが、主人公たちの超然とした姿に心が雪がれる。 特に好きなのは以下2つ。 ずっと昔、あなたと二人で阪神大震災で孤児となった女の子が空き巣で生きていくお話。ある日霊能者と出会い、天使として指令をこなしてゆく。ある日、大きな任務として子供の死体を回収しに行くのだが…。 胡散臭い霊能力者の家とはいえ、安住の地ができてよかったなぁと油断してたので終盤の超展開

『沈みかけの船より、愛をこめて 幻夢コレクション』乙一、中田永一、山白朝子(著)

乙一は大好きな作家だが、最近のは読んでないし、他名義も読んだことなかった。そんな折、丁度良く他名義も集めたアンソロ短編集があると知り、手に取る。 どういう使い分けか不明だが、全部普通に乙一。文体を使い分けてると思ってたのでやや拍子抜けかな。しかし毎度死角から心の柔らかい所をつついてくる手腕は健在。正直傑作は無かったが普通に楽しめた。 ちなみに、解説の安達寛高は乙一の本名。なのでセルフ解説なのだが、〇〇らしいとか他人事で評していて笑える。 また、Amazon限定で本になら

『まず牛を球とします。』柞刈湯葉(著)

大好きな「まず牛を球とします。」がやっと本になって嬉しい。 描き下ろし2編を含む14編を収録の短編集。どれも皮肉たっぷりで大満足。皮肉というより、人間に対する絶望なのかな。これを笑い話にするのだから最高。既読も結構あるが、何度読んでも良い。以下好きなやつピックアップ。 まず牛を球とします。仮定ではなく、食料生産のため、物理的に牛を球にする未来のお話。牛肉は食べたいが、動物は殺したくない。という思想にテクノロジーで対応してゆく。 「たのしい超監視社会」と「未来職安」にならん

『バン、バン! はい死んだ』ミュリエル・スパーク(著)木村政則(訳)

ブラックユーモアという事で、さすがエゲレスさんだぜというのを期待してたがそういうのではなかった。黒いというより不気味。幻想的で不親切で理不尽。妖精が描いたような一冊。 詩人だけあり文章が素敵なのだが、お話はとにかくわかりにくい。歯車が噛み合っていない感じ。これはもちろん意図的で、信頼できない語り手だったり、誰かが嘘をついていたり、はたまた主人公が狂ってるのかも? と読み手に想像させる。答えを書いてない。最近のわかりやすい本ばかり読んでると、殴られたように感じる。 どれも良

『ロンドン・アイの謎』シヴォーン・ダウド(著)越前敏弥(訳)

傑作ジュブナイルミステリィ。ミステリィとしても高得点だが、家族ドラマとしても100点満点! 美しくて感動してしまった。子供も親も楽しめる超オススメの一冊。 お話は、もうすぐニューヨークに旅立つ母子が、主人公一家の家に泊まりにきて、ロンドン観光で巨大観覧車に乗りにゆく。子どもたちだけでチケット売り場に並んでると、知らない男がチケットを1枚だけ譲ってくれ、客で従兄弟のサリムに譲ったところ、1周しても観覧車から降りてこず失踪、行方不明になってしまう、というもの。主人公とその姉が責