『沈みかけの船より、愛をこめて 幻夢コレクション』乙一、中田永一、山白朝子(著)
乙一は大好きな作家だが、最近のは読んでないし、他名義も読んだことなかった。そんな折、丁度良く他名義も集めたアンソロ短編集があると知り、手に取る。
どういう使い分けか不明だが、全部普通に乙一。文体を使い分けてると思ってたのでやや拍子抜けかな。しかし毎度死角から心の柔らかい所をつついてくる手腕は健在。正直傑作は無かったが普通に楽しめた。
ちなみに、解説の安達寛高は乙一の本名。なのでセルフ解説なのだが、〇〇らしいとか他人事で評していて笑える。
また、Amazon限定で本にならないと思って買ったカー・オブ・ザ・デッドが入っており吃驚。
以下好きなやつピックアップ。
五分間の永遠
いじめられっ子が、クラスメイトに500円渡し、5分間友達のふりをしてもらうお話。
ベタな展開、ベタなオチ、それが良い! とはいえこんな切ない話勘弁してくれ。
沈みかけの船より、愛をこめて
両親が離婚することになり、どちらについて行くべきか慎重に査定するお話。
母と父、どちらが好きかではなく、金と生活能力で選んでゆく主人公に共感しかない。自分も子供の頃、母親が「離婚したらどっちについていく?」と聞いてきたことがあるので、同様に悩んだ記憶があるが、この主人公の冷静さには舌を巻くよ。しかしそれより、父親が気持ち悪すぎてホラー。なにからなにまで終始気持ち悪い。このホラー具合は意図されてるのだろうか? 悪い意味で印象深い一遍。
二つの顔と表面
宗教2世の娘に人面疽ができ、クラスで発生した猫殺害事件を二人(?)で捜査するお話。
今話題の宗教2世のお話。彼にも人面疽がいれば、あんな凶行には及ばなかったろうに、と思わずにおれないほど、このお話の人面疽は良いやつ(笑)
人面疽が出てきた時点でホラーかと思いきや、まさかの探偵もので、意表を突かれる。まぁこの謎自体は無理筋だと思うが、人面疽が可愛いので許せる。そしてラストに明かされる(というか示唆される)人面疽の正体も予想外で良かった。後日譚が気になって仕方ない。
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