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フィクショニズム File01

xx70年
この世界は物語
L大学
「なぁ。この世界が本当に物語と変わらないってんならよ?誰がこの世界を作ったんだよ?」
「それ。さっきの授業の内容?なんも聞いてなかった~」
ショータはそう答え、
「それは…作者がどっかにいるんじゃねえの?」
と曖昧な返答を返してきた。
「『作者の意向』ね…本当に作者なんていんのかな…?」
この人生は物語。
そんなこと言われても何と言うか…だから何やねんと思う。別に「物語」であろうとなかろうと俺の生活が変わる訳ではないし…

さっきの授業で習ったこと
・犯罪率が増加している
1.「一度きりの人生なら歴史という物語に名前を残したい」
2.「『正義』という物語に皆酔いしれている」
・結婚率が上昇している
「人生の出来事はイベントっしょ」

自分が気になったトピックを挙げるとこんなところ。
「」は理由を俺なりに解釈してみた。犯罪率が上がっている。ということは1の理由が考えられるとともに2、つまり犯罪を発見する人が増えたということも考えられる。
実際、世は正義面する奴らで溢れている。
「おもしろいね。その仮説」
授業後、カフェで友達のアカリにこのことを話したとき彼女はそう言ってくれた。
俺は頷いて答える。
「物語はふつう、言葉を内包するものだけど『正義』とか『幸せ』とか抽象度の高い曖昧な言葉には物語が内包されているんだ。それぞれの人の強い価値観が物語を生成するんだ」
「ちょっと前までは勝ち組、負け組なんて言葉があったくらいだからね」
「そうそう」
いつものようにメニューを見ずにさっと注文を済ませる。
「そういえばアカリはフィクショニズムのことどう思ってるの?」
「え?う~ん。あんまり興味ないなぁ…別にどっちでもよくない?」
「だよねぇ。俺も同感。それにさ。物語ってんなら作者か読者がいないとおかしくない?フィクショニズムの人に聞いても答えをぼやかすんだよな~」
「私さ。高校生の時に付き合ってた人がいたんだけど」
「お、何急に。うん」
「付き合ってた」と言ったということは今は付き合ってないということか…?魔が差したような考えが頭をよぎる。
「なんか、なぜか彼氏の人、いつも私にそっけなくてさ。う~ん。本当に私のこと好きなのかな?って話してて何回も思ってたんだよね。目も合わせてくれないし、話がそもそも嚙み合ってないし。それで聞いたんだよ。『本当に私のこと好きなの?』って」
「んで?」
「そしたらさぁ、『なんか飯田さん(アカリ)に告白するまでは良かったんだけどさぁ、その後のことあんま考えてなかったっていうか。正直に言うとさ。俺、自分の物語にイベントが欲しかっただけなんだよね。だからなんて言うんだろ、飯田さんと長く付き合うことまで考えてなかったっていうか…』って。なんか…今思い出すと笑えてくるんだけど」
「なるほどな。面白いね、その子。でも今ではそういう子も多いのかな?まぁ要は」
俺はさっきテーブルに置かれたアイスココアをストローで飲んでから言う。
「アカリとの交際は彼にとって『イベントに過ぎなかった』ってことになる」
「なんかあんまりじゃない?そういうの。本当勘弁してほしいよ。こっちはそんな人と付き合ってたのかって馬鹿馬鹿しくなっちゃう」
「でも、その子はアカリに告る前まではちゃんと好きだったんだろ?だから告ったわけで」
「いや、どうなのかな~?」
「え。そんな告白の時でさえそんな温度感だったん?」
「かも。なんか今思えばだけど用意してきた文章そのまま読んでた感じが…」
「じゃあアカリが悪いかも(笑)」
「(笑)かもね」
「ルキ君は?彼女とかいるの?」
「え?もしかして誘ってる?俺、ありですか?」
「いや。ないよ」
冷淡に言われる。まったく、アカリはそういう物語とは無縁らしい。
「へぇそうですか。いたことないよ。そういうのはくだらないと思うから。あ、でも決してこれはアカリのことをくだらないといってる訳でもなく、他のカップルやリア充を爆撃してしまいたいとか思ってるわけじゃないんだ」
「まだ何も言ってないけど」
「くだらないってのはさ。やっぱ彼女とかできると俺も男だから肉体的関係を求めてしまうと思うんだよ。もちろん強要する気なんてないよ。彼女ができたとしても。ただ要求はしてしまうかもしれない。その感情が湧き上がってくるのがくだらないと思うんだ。まぁ人生なんて本質的にはくだらないんだろうけどさ。
あとは」
「あとは?」
「傷つけるのが怖いから。かな。アカリも分かると思うけど、俺何かとズバズバ言う方じゃん
?」
「うん」
「だからこれまでにもこれからも、もしかしたら知らないうちに人を傷つけることもあるかもしれない。それが彼女だったら嫌だなと思い」
「なるほどね。でも私は司君の言うことで傷ついたことないけどな」
「それは…ちゃんと気を使ってるからだよ…」
「なんで?」
「大切な…友達だから」
「…」
「…」
「今、好きだからって言ってくれたら付き合ってあげたのに…」
「は?もう一回やり直してもいいですか」
「うん。だめ」
俺はアカリが好きだ。でも愛してはいないんだと思う。これは多分loveではなくlikeでショータに抱く感情と近しいものだと思う。
アカリには言わなかったけど彼女をつくってこなかった理由はもう一つある。
それは、人を好きになることがどういうことなのか、わからないからという理由だ。


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