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箱の中身はなんだろな 前編

ピンポーン

おっ、届いたか。
俺は重い腰を持ち上げ、宅配便を玄関まで取りに行く。
部屋に戻ってくると金魚の水槽くらいはあろう段ボールをドサッと置いた。
俺の心は浮き立っていた。
昨日俺は、ある商品を注文した。
——全自動散髪機。通称AHM(Automatic Haircut Machine)。
いやー買っちゃったよ!ついに買っちゃいましたよ俺は!理由?言わなくてもわかってくれよ。

俺は見知らぬ人と話す時間があまり好きじゃないんだ。というか興味が無いんだ。だから、そろそろ散髪しなきゃなーって思うと気分が沈んでしまう。あぁ、またあのつまらない時間を過ごさなくちゃいけないのかって。つか話しかけられたくないんだよ。ほっといてくれよって思うもん。だから毎回散髪屋に予約の電話をするときは5回ほど躊躇して散髪日を引き延ばし、さすがにもう限界だろと言うときに決死の覚悟で電話していた。
散髪日当日は緊張してしまい、ビビッて午後に予約したが午前にしときゃよかったなーと猛烈に後悔することは俺の散髪あるあるだった。んで、渋々散髪屋まで足を運んで、いざ散髪してもらう際も髪型を告げるとすぐに目をシャットアウト。
「はい、終わりました」
そういわれるまで瞼が開かれることは決してない。
え?散髪中は何を考えているのかだって?そりゃ、もう、「どうか話しかけてきませんように」ってことに決まってるよ。その時の俺は誰よりも必死に祈ってるよ。

てなわけで、AHMのCMをテレビで見た時はもう即決だったね。今までで一番早い意思決定だったかもしれないよ、うん。ちょっと値は張ったけど、あの散髪の時間が一瞬で終わり、それに加えて一人で散髪できる!これほど俺の気持ちを理解している商品が今まであっただろうか!
そして待ちに待った今日!この瞬間!ついに届いたぜ!
俺は童心に帰り、まるでサンタからのプレゼントを開けるときのような勢いで段ボールを開けた。中から出てきたのは一周り大きいバイクのヘルメットのような体を成した白色の機械だった。顔の部分には特に何もないが前髪から後頭部まで余すところなく覆えるようになっていた。俺は洗面所に行き、新聞紙を床に敷いて、徐にAHMを装着した。半年ほど髪を切っていないこの俺は髪のボリュームを考えるに装着できるか不安だったが、さすがAHM。そこは難なくクリアすることができた。
ぽぉおん
機械音が鳴る。
「頭部測定中…………しばらくお待ちください」
女性の声がAHMから聞こえた。
取扱説明書によるとこれで使用者の頭の形、毛髪量や髪質などを測っているらしい。
「測定完了。髪型はどうしますか?」
おっ、来た来た。俺はスマホをみる。使用者の頭の形、髪質などから、AHMは俺の頭の形を考慮した髪型を提示してくれる。なんとそのリスト数は50件にも上っていた。そんなに俺の髪は扱いやすかったか、と微笑しながら俺はせっかくだからと迷いに迷って俺が今リストの中でもっともイケてると思う髪型を選んだ。

後編に続く



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