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短歌おきば 2023
風寒み春はまだしと白雪のかをらぬ枝もやがて初花
さびしさは氷る空よりささめ雪ふる巣にむせぶ谷のうぐひす
散りゆくを花は蕾も固き間にならふか雪のこぼれては降る
月影は友かあらぬか春風もこころ吹きあへぬ思ひ寝の空
見し花は夢と別れし梅が枝に露おきそへて春雨ぞ降る
ひさかたの雲ゐにほふと見し花の散るにむなしき空ぞ晴れゆく
桜花さそふ夜風のほのかにて月影ふかき空のささ波
思ひ出づる夜のいつと
短歌おきば 2022-11/12
夜をかけて並べし影の思ひ出にながむばかりの秋のともしび
吹きつるる冬の朝風見し色のなごりやすらふ池のつはぶき
草の原つゆをかたみにすず虫のふればさびしきよよの面影
窓暗き雨の長夜の雲とぢて月は知らじな袖の露霜
ゆく末も千世をつぐみの声晴れて峰たのもしき曙の空
大銀杏木の葉くだけて散る果ての冬風かろき寺の夕暮
夜の星に見し面影をかぞへつつ末はててゆく年をしぞ思ふ
鐘の音に年は送りぬ見し
短歌おきば 2022-09/10
いく心よを祈るらむ蓬生も宮こもおなじ月影の内
曼珠沙華とほき夕日のかげろひて末野にあまる花の秋風
月夜かげ露か涙か秋草の荒野こたふる蟲のこゑごゑ
古里の秋も吹くらん来し方を語らでかをる木犀の風
夕日入る空は千鳥のこゑ暮れて帰る雲路をさそふ星影
語るべき友やいづこに立つ鳥の声ふき残す風の夕暮
むら紅葉染まれや染まれ秋おもる袖の涙も雲のふるさと
短歌おきば 2022-08
夜にひとり時をたがへてなく蟬のこゑに更けゆくやどの月かげ
群雨の遠になりゆく野辺の葉に宿りそめぬる月の秋かな
夏暮るる峰の涼風音ふけて星原高く虫ぞ鳴くなる
入日影慕ひし蟬の声遠くこなたの風に秋ぞ知らるる
もみぢせぬ野中そよぎて立つ櫨の一葉に契る秋の夕影
短歌おきば 2022-06/07
森の奥の声は梢もさやかにて山ほととぎす夏ぞいざなふ
隔てつる雲のあなたにすむ影の洩らぬもしるき五月雨の月
吹きいづる屋戸の朝明の夏風にけふ咲きぬらむ丘の山百合
夜の雨の晴るる夏野の風の香に面影そへて月ぞしづけき
影遠き峰より走る雲の色もあをに染み行よもの大空
短歌おきば 2022-04/05
めぐり逢ふと見し間にもろき桜花ふる春ごとに添へる涙か
雪と散る花のなごりを先立てて木の下陰は著莪盛りなり
ひさかたの月夜しづけき春の池の波にあまぎる花の浮雲
やすらはむ春のいくかの跡とめて雲うちにほふ藤の下風
暮れかかる春の入日の影さびて香ぞなつかしき藤波の庭
うたかたの花なごりなき夏川の波さし渡る若葉風かな
春越えて降りもまがふか夏の丘の星と雪とのゑごの花かげ
吹きはるる朝の若葉の
短歌おきば 2022-03
月よなほこのごろは見よながらへば涙ながらも語りあはせむ
来し方をおもひ寝覚めの奥深くこゑなき夜の星影の下
誰が袖か思ひ出づらむ梅の花夢吹きまがふ朧月夜に
花よいつ木の芽は雨に閉ぢられて窓うつ音のしきるさびしさ
いかに見しはるか木蓮空に咲き罪なくて散る花白たへに
風払ふ雲の垣間に月は出でて白む影より花ぞ降りける
短歌おきば 2022-01/02
日影さす今朝のみ雪のむら消えに色ひてけりな丘の玉笹
いづこより匂ひそめけむ梅の花咲かぬ梢もおなじ春風
冬草のかれて幾よの山里のさびしさ氷る池の月かげ
風になく声はかれ野の昔にて空しづまれる深草の雪
おとづれぬ花はうつつに見えねども岩間うち出づる春の玉水
ことに見ゆこれやこのめもはるの夜の梢こぼるる空の月影
咲きそめし花より雲を吹き越してたよりなりけり梅の春風
染みぬるかこころは花を待
短歌おきば 2021-12
降り残る紅葉むなしき晴れ間より青澄みとほる冬の朝風
色に散りよどみに積もるもみぢ葉のそこひや星のとこしへの夢
花に別れ紅葉あとなき冬の夜も影は忘れじ月の宮人
風氷るよもの枯生のさびしきに月や誰もる夜の片目の
薄雪の消え行く山の色々に落葉の下路雨しほるらむ
とめ行かば果ては月ともしら雪のうさぎ跡ある有明の野辺
天つ空入日に残る風の音は別るる年の惜しみけらしも
短歌おきば 2021-11
夕日影さしてを行かんむらむらに紅葉ふりそふ秋のかけはし
今はてふ風の誘ひにもろく落ちて紅葉は眠るささなみの上
散りはつる木末の空の雲の色に匂はぬ風も花の思ひ出
古寺の鐘のなごりに木の葉降り又おとづるる風の通ひ路
うつろへる空にもみぢのふる池のこころにふかき紅の波
短歌おきば 2021-10
青葉慕ふ蟬の声々あと絶えて今ひとしほの秋の山風
入日さす池辺にかろき秋津羽の天飛ぶはてぞ色まさりける
秋風に契りやしけむ咲きかへり今朝ふたたびの桂花匂ひぬ
言問はむ木末隠れの庭すゞめ羽に桂花の香をやうつすと
弓はりの入りにし月の面影に長き夜のこる雲のさびしさ
ひとり聞く長き寝覚めのくもり夜のこなたかなたの雨音の秋
入日色うつろふ庭の秋暮れてこのごろさびし虫の音の宿
なく蟲の思ひしをれ
短歌おきば 2021-09
夏の尾のけしきを洗ふ夜の雨にそそや涼しきやどの秋風
秋の雨の小止む池辺のはなれ松染めぬ梢も露ぞうつろふ
風よわみなほ虫の音は遥かにて月なき夜の星のさやけさ
朝明けやいづくの秋を吹き越して風は桂花の香ににほふらむ
晴れそむる雨の桂花に影さして露さへにほふ夕映えの色
秋ごとに身はふりぬれど曼珠沙華あかぬ色にぞ咲きまさりける
秋の野やうき世をよそにあくがれて千代も寝なまし彼岸花咲く
天つ風
短歌おきば 2021-08
行きくれて結びもあへぬ夏草のあだこと繁きよにぞ砕くる
夕日影のこる梢になく蟬の声ぞうつろふ杜の初風
雨晴れて秋めぐるなり吹く風も虫の鳴く音も色は見えねど
法師ぜみ峰の入日に声満ちて四方染めいづる夕雲の空
虫の音のたえて夜深き天の海に猶散りまさる星影の浪
吹きかはる野辺の葉ずゑに秋かけて入日落ちたり蜩の声
雨かかる秋のまがきの朝顔のあしたの花よあきらけくこそ
むなしさのはて越えてゆけう
短歌おきば 2021-07
アガパンサス恋のそれともわかぬ日のおなじ夏野に花の咲くらむ
くちなしの八重にうちそふ古寺の声ぞしみゆく暁の雨
夏蟬の声はなごりに暮れはてて小雨すずしきねやのさよ風
風きほひ雲こゑごゑにソプラノもバスも千々ゆく夕立の雨
風よわる夏の道べに塵立てて踊るやあつきランマーの音
青鷺は池の島守羽干して影のしづくに法やしるらむ
はかなくていくかの夏の入相の声つくづくと法師蟬かな
夏衣うすきうたた