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2023上半期 覚書5

「ただいま」と言わんばかりの勢いでガラスのドアを開けた彼は、いつも通りといった風に鞄を置いて椅子に座った。

そして、今日のできごとを相談員に話していて、私をちらと見て、またいつもの相談員と話し出した。

まあ、私は新入りだし、仕方ないかな、と少し心の奥で笑う。

その後、軽く自己紹介をしたりして、なんとなく三人で話すうちに、彼がよくここに来る高校生だということが分かった。
ちょっとシャイな感じの彼は、相談員とはなんでも話せる間柄の用で、ふたりの信頼関係を感じた。
いずれ私にも心を開いてくれたらいいな、そんな関係が築けたらいいなと思いながら、二人の話を聞く。

そのうちに、私が手にしていた「丹後の歴史観光」の本を見て、彼が「俺ここ行ったことある」と話出した。
私の隣に移動すると、ページをめくっては箇所の説明をしてくれる。
その説明が、行ったときならではの様子、詳しくてわかりやすくて、私もつい行ったような気になってしまった。
歴史も面白くていろいろ質問してしまう。
ひとしきり一緒に本を読み、いつの間にか笑い合って自然に話すことができていた。

「次またわかんないことあったら教えてあげるよ、一応ここの住人だからね」
と言ってくれた。
来たばかりであまり土地勘のない私に、面倒くさがらずに丁寧にいろいろと教えてくれ、優しい子だなと思った。
私もこの場所で、彼が「ただいま」と言いたくなるような、優しく受け止められるような空気がつくれたらいいなと感じた。

ここで過ごした数か月、この彼との出会いが私にとって一番私を成長させてくれた出会いとなったと思う。いろんな「よかった」や「楽しい」思い出を作ってくれた。






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