推しの健康と幸せを願うなら、生理について知ってほしい。和田彩花・ぱいぱいでか美・竹中夏海が語る“アイドルと生理”
「生理」という話題についての感覚は、本当に人それぞれ。
10代の頃からアイドルとして活動し、2020年の #NoBagForMe PROJECTメンバーもつとめていた和田彩花さんは、以前は「生理」という単語自体を口に出せなかったのだそう。
今回は、「生理についても現状報告の感覚でオープンに話してきた」と話す、タレントかつ熱狂的アイドルファンでもあるぱいぱいでか美さんと、そんなアイドルやタレントを見守る立場も担う、振付師の竹中夏海先生を迎えての座談会を実施。
「アイドルと生理」をテーマに、それぞれが率直に語り合いました。
<座談会に参加してくださった3名>
和田彩花さん
2009年、「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)のメンバーとしてデビューし、初代リーダーを務める。2019年にグループを卒業した後も、アイドルとして活動中。
ぱいぱいでか美さん
歌手、タレントとしてバラエティ番組でも活躍。熱心なアイドルファンとしても知られる存在。
竹中夏海さん
振付師として、数多くのアイドルグループの振り付けを担当。2021年、アイドルの健康課題を取り上げた著書「アイドル保健体育」を上梓したばかり。
(聞き手・編集:小沢あや(ピース) 写真:曽我美芽)
生理について、周りの人にどう話す?
――みなさんが働く現場には、さまざまな性別の方がいますよね。そんな中で、生理についてはどんな風に話してますか?
和田彩花(以下和田):わたしは、以前「生理について話すのは恥ずかしい」と思っていて、自分自身にめちゃくちゃセーブかけてました。グループ所属時代は、生理についてほとんど話せなかったですね。最近は世代の近い身近な方が発言してるのを見て、口に出していいんだなって意識になりましたけど。
和田:生理痛で薬がほしいときにも素直に言えなくて、「鎮痛剤ありますか?」って。「生理」って言葉自体を出さなかったですし、他の子も「アレ」って濁していた気がします。今思うと、わたしがもうちょっと積極的に自分から生理の話もしておけば、後輩たちも楽だったのかなあ……。
ぱいぱいでか美(以下でか美):わたしは、生理について話すのが恥ずかしいという感覚は、昔から全然なかったです。これまでのマネージャーさんにも生理になったら報告して、「ほんと申し訳ないんですけど、ここから数日間、イライラしてますよ!」っていう宣言をして(笑)。
竹中夏海(以下竹中):大事(笑)。
でか美:体調が100%じゃない状態、ってことは伝えといたほうがいい。「生理痛がつらいから、開始時間ギリギリに行きます」とか、結構はっきり言うタイプですね。「解決できないし、毎月来る困難だから、報告しておく」って感覚でした。
竹中:パフォーマンスにおいても、生理はネックになりますよね。わたしは生理に振り回されて、「これは仕事にならないな」と思って婦人科に行き、ピルを飲むようになったんです。そうしたら、アイドル以外のタレントさんとかにもすごくピルの話を聞かれるようになって。
わざわざ個人的に連絡先を聞きに来て相談してくれる子もいるぐらいだから、よっぽど聞ける環境がないんだって、そこで初めて感じました。
人それぞれの「生理」。話すときの気づかいは?
――体のことは、どこまで話したいかが人それぞれ違うトピックでもあります。相談されたときなど、生理について話すときに心がけていることはありますか?
竹中:基本的には、相手から聞かれたら話してます。ただ、相談しやすい人だと思ってもらえるように、日頃から大きな声で「わたし生理痛重めでね、いろいろピルとか飲んでるよ!」って話はしています。
竹中:自分のこと限定ですけど、生理について大きな声で話せば、男性スタッフの耳にも入るんで。「いろいろと大変なものなんだな」って刷り込ませるみたいなことはしてました(笑)。
――生理のくる年代の人が5人いたら、誰か1人は月経期間でもおかしくないぐらい、日常的なことですもんね。
でか美:わたしは生理で調子の悪そうな子がいたら、同じグループでなくても、できる範囲で助けてあげられることをするようにしてます。体調が悪そうな子がいたらサポートして、「ナプキン持ってるから貸せるよ」とか。ちょっとしたことなんですけど、「あなたがつらいことをわたしたちはちゃんと共有できているし、迷惑ともなんとも思ってないですよ」って空気は作れるのかなって。
でか美:あとは、「オープンに生理の話、するからね?」ってスタンスを、男性に対してもとってます。バンドメンバーはみんな男性なんですけど、スタジオ入ってすぐ「生理きた、最悪じゃ〜!」って言ったり。
そうするとメンバーもみんな「大丈夫?」「エアコン切ろうか?」って言ってくれるんです。「そんなこと、男の前で言うなよ」って言う男性にこれまで出会ったことがないから、言いやすいですね。
――和田さんはいかがですか?
和田:以前のわたしみたいに、「生理について話せない、話したくない」という状態の人もいます。でも、生理を恥ずかしいトピックだと感じていると、必要な情報にもあたりにくくて、助けを求める先や解決策にたどり着けず、結局自分がつらくなっちゃう。
だからこそ今は、人に聞かれたら、なるべく自分の経験を話すようにしています。困っている子には、医師や専門家が監修している記事も、積極的に送ってますね。「これをしたほうがいい」とは言わないですけど、情報をそっと。
生理中もパフォーマンスで力を発揮するための工夫
――ライブや公演と月経期間が重なることも、たくさんありますよね。そんなとき、振付師の立場から調整することってあるんでしょうか?
竹中:「キックの向きや角度はやりやすいように変えていいよ」などの話はしますね。ユニゾンの振付は、1人だけ変えるとかえって目立つこともあるので難しいところですが、ソロパートなどの振付は、生理に限らず関節の不調なども含め、「体を優先していいよ」って。
和田:アイドルって、基本ステージには立たないといけないんですよ。でも、調整はある程度できる。もしも、いつもより手を抜いているように見えた子がいたとしても、メンバー同士で責めない空気はすごく大切だなと思います。
和田:振付の先生が事前に声かけしてくれるだけで、メンバーも「あ、そういうことなんだ」って認識できるし、助かるんじゃないかなと。もちろん、ファンがパフォーマンスを見てどう言うかは、また別の話だと思うんですけどね。メンバーが味方になってくれるだけで、ずいぶん楽だと思います。
でか美:わたしは基本がピンでの仕事なのもあって、代役をお願いできないことも多いんです。ぶっちゃけ、「なんか不調だなあ」「今日のライブ大丈夫だったかな……」と思うことはありますよ。生理で体がむくんだ状態での水着撮影があったりもするし、取り除ききれない不安も……。
でか美:それでも、周囲に「生理です!」ってオープンに話している分、サポートはしてもらえるんです。グラビアだったらメイクさんが、「アクシデントが起きてないか、わたしがいつでもお股をチェックしてあげるからね」「なんかあったら、すぐ中断させるから大丈夫!」って言ってくれたり。
和田:メイクさん、結構味方になってくれますよね。
竹中:この1年ぐらいで、月経カップや吸水ショーツを使うアイドルやダンサーも増えた印象です。月経カップはサイズや素材が合えば本当に漏れないから、運動する子や踊る子、水のある場所でのグラビアがある子にオススメですね。ただ、試さなきゃ合うかわからないという手間があるのと、慣れるまでが少し大変ですよね……。
でか美:最初にかかるお金が安くないっていうところも少しハードルが高いですよね。使い続ければお得なんですけど……!
竹中:吸水ショーツも経血量が少ないときや、まだ生理が始まりたてで周期が安定していないときに便利だけど、若い子がいきなり買うにはちょっと高い。特に世代が低いアイドルを抱えている事務所には、生理用品と一緒に、常備しておいてあげてほしいと思います。
和田:それで言うと、わたしは「ナプキン持ってますか?」って、女性のマネージャーさんにしか言ってなかったから、みんなに聞けるようになるといいのになあって思いますね。
でか美:生理に限らず、「万全の体調じゃないけどライブの時間だ、行かなきゃ」とか、根性論的な部分がどうしてもある程度は出てくる。だけど、その中からいらない根性論を省くことは絶対できるから、身の回りから考えをアップデートしていけたらいいのかなと思います。
アイドルが婦人科に行くことへのハードルの高さ
――人前に出るお仕事をされている方は、婦人科に行く心理的なハードルを感じている方もいらっしゃる印象です。
和田:わたしはグループを卒業してからすぐ、初めて婦人科に行ったんです。それまでは「わたしが婦人科にいるところを見られたら、どう思われるんだろう」「グループになにか迷惑がかかるんじゃないか」という怖さがあって、行けませんでした。
――「婦人科=性行為との関連があるもの」という印象を持ち、アイドルが行くことをネガティブにとらえる人も、実際見かけますものね……。
和田:本名で呼ばれて、周りの人に「アンジュルムの子だ」とわかっちゃったらどうしようという不安があって……。受付番号で読んでくれる婦人科を調べてから、そこに行きました。その後考えが変わって、待合室で名前を呼ばれても大丈夫になったので、今は別のところに通っていますけど。
ーー月経困難症のほか、疲れをきっかけに発症する症状もありますし、婦人科はカジュアルに行くものだともっと知られてほしいですね。
でか美:この前事務所のみんなで、ソフィの担当者さんの講義による「みんなの生理研修」を受けたんです。
私ちょうど研修の直前に生理になって、ZOOMでゼーゼーしながら話を聞いて、ディスカッションのときに「今日生理でめっちゃ大変なんです」って話をしたら、「それ、婦人科に行くレベルですよ」って言われて。そこで初めて、「あ、わたしの生理の重さって、そんなレベルだったんだ」って知りました。
竹中:そういうものだよね。わかんないよね、自分では。痛みがどれくらいかとか。
でか美:ただ、自分はしんどいのが最初の2日ぐらいだから、あっという間に過ぎ去っていくんですよ。それで、「婦人科に行かなきゃなあ」と思いつつそのままになっちゃって。
そういうパターンもあるし、婦人科に抵抗があるって人も多かったから、「じゃあ、みんなで行けばいいんじゃない?」って話になったんです。妊娠だって体の仕組みとしてありうる話なんだし、「どういう理由で訪れるにしても、他の人と一緒に行くのもありなんじゃない?」って。
和田:うんうん。
でか美:とくに自分は年長者だから、「でか美さーん、婦人科連れてってくださいよ」って言ってもらえるぐらい、気軽に話せる文化ができたらいいなと思います。
ファンにも、生理に関する知識は持っていてほしい
――体や生理に関して、アイドルファンの方に今こそ伝えたいことは。
でか美:「アイドルもトイレに行くし生理は来る」って、わかってはいるけど目の当たりにしたくないって人もいると思うんです。その感情自体は理解できます。だけど、知識は持っておいてほしい。
女性アイドルのファンには男性も多いと思うんですが、違う体の仕組みを持つ人に、例えば「タンポンは膣に入れて使うけど、それは全然性的なものじゃないよ」って、どうやったら理解してもらえるんだろうとか、すごく考えますね。
竹中:生理については学校の保健体育で一応学ぶけど、他人事で頭に入ってこなかったという人もいるだろうし。健康を願う具体的な相手がいないと、あらためて知ろうとはなかなか思わないですよね。そのとき、「推し」の存在が知るきっかけになるんじゃないかな? というのが、今回の本「アイドル保健体育」を書いた理由でもあります。
振付師の立場から、女性アイドルの心と身体を見続けてきた竹中夏海さんによる著書。月経困難症、摂食障害、性教育、慢性的に不足した身体づくりなど、見えないものにされてきたアイドルの健康課題を取り扱っている。
和田:わたし自身、アイドルファンとして思うことですが、一番の幸せって、推しが健康で、幸せでいてくれることじゃないですか。その健康や幸せと、自分が求めたいキラキラした姿って、どこかでちょっと切り分けて考える必要があるんじゃないかなとは思います。
アイドルの健康状態を常に知っててほしいということではないんですけど、キラキラの裏には今日話したような苦労もあります。もし、「生理=性的な話題」と単純に結びつけてしまっているなら、そこは考えをアップデートできるといいんじゃないかな。
でか美:生理って、結局体のこと。他の体調不良と一緒で、言及されたくない人はされたくないんですよね。だから知識を持ったからといって「今日調子悪いの?生理でしょ!」とかって握手会で言うのは絶対やめてほしい(笑)。アイドルに限らず、身近な人を気づかうところから始めたらいいのかなと思います。
和田:推しに限らず、他にも身近なところに生理のある人はいるでしょうしね。そこから想像力を養うことができるといいなって、今思いました。
竹中:知識バッチリ、突撃OK!ってことじゃないよ、っていうね(笑)。
――知った上で、「アイドルにもそういう揺らぎがあるものなんだ」と、頭にとどめて見守ってほしい、と。
全員:そうそう。
でか美:見た目を好きになってくれたり、この肉体から発されるパフォーマンスを好きになってくれたりしている以上、仕方ない部分もあると思うんだけど。見た目や体に関する話は、人間としてすごく繊細なものだということは、知っていてほしいですね。
竹中:そのために、声をあげられる人があげていくのはいいことだよね。その一方で、空気感に呑まれて、本当は言いたくないのに「自分の健康状態を表明しなきゃ」って思っちゃう子もいるかもしれない。そういうプレッシャーは全然感じなくていいんだよってことも、すごく伝えたいです。
和田:それぞれの気持ちを尊重するのも大事なこと。そして、全体で乗り越えていきたいポイントでもありますね。
でか美:生理は隠すべきことだっていう押し付けへの反抗ってわけじゃないですけど、「自分は言える系の人だから、ガンガン行こう!」って意識していて。ナプキンも1個、むき出しでトイレに持っていきます(笑)!
全員:あははははは(笑)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?