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【映画感想】ホワイト・ノイズ

Netflixで『ホワイト・ノイズ』を観た。こういったパニック映画?に分類されるような映画をあまり観たことがなかったのだけど、手に汗を握りながら、画面に惹きつけられた。こういった映画では、「自分だったらどう行動するだろう?」といった観点で楽しんでしまうけど、これは一般的なのだろうか。
オープニングでは、アメリカ人が衝突事故などのショッキングな映像を娯楽映像として、いかに楽しんでいるかということを、大学の講義を模して描いているのも面白い。まさにこの受講者は、この映画の観客なのだろう。

スリル溢れるシーンでは、自分だったらどう行動するか?といった視点に加えて、主人公一家が危機から回避する瞬間にもカタルシスが満たされる。本作においては、有害物質の曝露地域となった自宅からの逃避行に車を利用しているが、車を持たない人々は、雨に打たれながら歩かねばならない。雨が降りしきる外界は危険かもしれないが、少なくとも車内にいる間は安心なのだろうと、胸を撫でおろしてしまう。
一方、これまで知的に描かれておりプライドの高そうな大学教授であるジャックが、ガソリンを入れるためとはいえ、あっさり雨に打たれているのは違和感がある。(さすがに観ながら突っ込んでしまった) 
また、長男が優秀すぎるのも、ややご都合主義的に思えなくもないけれど、この一家は一定以上のレベルの教育を受けていると理解した。本作のメインテーマではないだろうが、アメリカという国の格差についてもところどころ描写がなされていると感じた。

また、フィクションには野暮だろうが、漏洩した化学物質は、一体なんだったのだろう。化学者の端くれとしては気になった。長男の話を鵜吞みにするなら、炭酸ナトリウムで処理できるとのこと。炭酸ナトリウムは弱アルカリ性だから、酸性の物質なのだろうか。それなら酸性雨として降り注ぐ説明もつきそうだが、長期に渡って人体を蝕むといった性質とは繋がりにくいような気もする。まぁ、ここにあまり考察してもしょうがない気もする。

個人的に本作は有害物質の漏洩と、バベットの秘密という2本の糸が交差しながら編み上げられているような物語だと考える。前半の有害物質の漏洩、曝露、そして果てない逃避行とジェットコースターに揺さぶられるように進行していくが、バベットの秘密が明かされてからクライマックスまでに更にギアが一段上がるのが、素晴らしい。バベットの秘密については、賛否が出るような気もする(バベットが怖れていたものの方ではなく)。ただ、結局人間は人間の中でしか生きられなく、誰かとの繋がりにすがるしかないということをドライに描いているのかもしれない。一人の民間人が隠している秘密としては最大級のものなんだろう。事実、ジャックはひどくショックを受け、衝動的な行動にも出てしまっている。
ちなみに、モーテルの男は、浮世離れした気持ち悪い感じがなんともいえず良かった。メイク、演技含めて、拍手したい。

本作は単純なパニック映画ではなく、一つの家族を通して、生きるということ、死ぬということ、人生観などを考えさせる内容となっているため、非常に重厚感もある。 
物語の前半で、ベッドでじゃれあいながらジャックとバベットが死について語るシーンも、改めて見直すと、意味合いが変わってくる。二人はしきりに相手に残されたくない、先に逝きたいと繰り返すが、現実味を帯びた死は、そんな綺麗ごとでは覆いきれないのだろう。
ジャックが途中から抱えた秘密、バベットが隠し続けた恐怖の正体、誰もが死を身近に感じながら、どう生きていくか、正解のない問いという雨に打たれながら、歩いていかねばならないのかもしれない。

終盤に救急病院のシスター(強烈なキャラだ)が現れ、思いをぶちまけているときにふと思ったが、本作から、古代ローマより伝わる戒め「メメント・モリ(死を思え)」を連想する。
一見すると娯楽映画の表層を纏いながら、その実、そんな哲学的なテーマを孕んだ映画なのだと思った。
最後はほろ苦さを残したハッピーエンドという感じで、それもとても良かった。

ちなみに、ホワイトノイズには以下のような意味があるそう。

ホワイトノイズ(White noise)とはノイズ(雑音)の一種で、様々な周波数の音を同じ強さでミックスして再生したノイズです。

https://www.audio-technica.co.jp/always-listening/articles/white-noise/

作品の内容と比較して、いまいちピンとこない。あえて言うならホワイトノイズ≒人生として、人生にはとてつもないパニックも、全体からみるとささいな、しかし当人にとっては重要な家庭問題も起こり得るけど、そのどれもが等しく、平等な価値を持つ、、といったところだろうか?
自分で書いておきながらあまりしっくりとはきてないので、他の方の意見も参考にしたい。

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