2021年度個人的良かった映画

タイトルの通りですが、少し前置きを。

ぼくは子供の頃から、映画というものにあまり触れてこなかった。

(ジブリとかドラえもんとかポケモンとかそういう類のものは観た記憶があるし、普通に楽しんでたけど)

特にミニシアター系の映画というものは存在すら知らなかった。それがここ1~2年で映画館によく通うようになった。

きっかけは映画好きの後輩に誘われて観にいった「エイス・グレード~世界で一番クールな私へ~」という作品。決して派手な映画ではなかったけれど、登場人物のさりげない表情の変化や、紡ぎだされる印象的な台詞回しなどがすっと沁みてきて、映画ってこんなに面白いんだと感動した。特に主人公のケイラが地味で目立たない女の子で、過去の自分を少し投影したりもして(笑)

そんなこんなで映画を観るようになったのだけど、せっかくなので備忘録の意味も込めて、2021年度に個人的に良かった映画を残しておきたい。ただ、どうしても忘れていることもあるし、今年は観たらすぐに記録に残したいと思っている(少なくとも今は)

尚、前述したとおりぼくは本当に駆け出しの映画好きであり、拙い記事になっていると思うので、ご了承願いたい。また、ネタバレのないようには書くが、不安な方はご遠慮願う。

*滑走路*(監督:大庭功睦)

萩原慎一郎の同名の歌集を原作とする日本映画。

正しい呼称というか分類というかわからないけれど、少し映画を観るようになって、ぼくはこういう社会派映画が好みだと分かった。

『滑走路』を観た時、現代日本を苦しみながら生き抜く人々の声にならない叫びを、映画というわかりやすい形で、ここまで鮮やかに生々しく表現できるものなんだと感動したことを覚えている。そしてそれは原作の熱量を失わないまま、余計な着色もなく描かれていて、この作品を多くの人に観て欲しいと思った。

ぼくたちは日常を生きていて、もちろん人による差異はあるけれど、触れている世界は、日本だけで考えても全体のうちの僅かしかないと思う。だから知らないこともたくさんあって、特に知らない”苦しみ”というものに目を向けることはない。例えば、華やいで見える芸能界の喜びや充実、幸福を羨むことはできるけれど、そこにどんな苦しみがあるか想像する機会は少ないし、またとても難しいことだ思う。もっと小さいスケールで考えても、会社の隣のデスクに座っている同僚の苦しみを知っているだろうか。

だからこそ人は、簡単に、悪気もなく、思いもよらない言葉で他人を傷つけてしまうのだと思う。

社会派映画は、簡単には知ることのできない、自分が触れることのない世界の痛みや苦しみを、知る機会を与えてくれる。だから社会派映画は、表面上とても冷たく、辛辣に見えることもあるけれど、とても優しいものだとぼくは思う。

『滑走路』もたくさんの人の苦しみが描かれていて、それは自分が理解できるものもあれば、理解できないものもあった。理解できない苦しみを、自分が触れてこなかった苦しみを、考えて考えて、少しでも自分の中に残したいと思う。

また『滑走路』には”救い”も描かれていて、それは誰もが一度は経験した自分いとっての”救い”と重ね合わせてしまう。人はこうやって救われるんだ、こうやって救われたいんだと目頭が熱くなると同時に、ぼくはすごくカタルシスを感じた。

また映画の構成がとても練られていて、終盤でそれまで隠されていた関係性が明かされるのだけど、個人的にはその演出がとても好きだ。

総じて、人にお勧めしたい映画である。

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出典:https://kassouro-movie.jp/


*茜色に焼かれる*(監督:石井裕也)

個人的社会派ベスト映画2本目。

どうしようもないほど痛ましく、切なく、そして強い映画だと思った。コロナ渦という、一変してしまった現代世界において、誰もが多かれ少なかれ苦しみを抱きながら生き抜いている。それはもはや自分の力ではコントールできないことが大半で、諦めてしまいたくなることもあるけれど、それでも生き抜かなきゃならないとそう思える作品だった。

誤解を生まないように書いておくと、この映画は『辛いこともあるけれど、頑張って生きましょう』と教えてくれる映画ではない。ただ、観た人に「立ち上がろう」と”自然に思わせてくれる”映画だと思った(観る人によって多少の違いはあるだろう)

この映画では多くの理不尽が描かれていて、ここまでの悲劇があるのか?と思えるシーンもたくさんある。ただ、主人公の親子を取り巻く登場人物が本当に暖かく、そして人間味に溢れていて愛おしい。月並みな言い方になるが、痛みを知った人間は他者に優しくなれるのだと思う。痛みを積極的に知ることは難しいし、そんな人間はなかなかいないだろうが、映画は一つの手段だと思うのだ。

この映画も滑走路と同じく、たくさんの人に観て欲しいと思う。

映像としては、終盤の茜色の夕焼けが本当に美しい。ぼくはここまで極彩色の夕焼けを観たことがない。ただ、このシーンは切り取ってそこだけを見ても同じ感動は得られないと思う。そのシーンまでを観続けて、映画に没入しつくした後に得られる、快感とでも言おうか。とにかく好きなシーンだ。

後は、完全な素人の意見だが、役者さん方の演技が非常に上手だったと思う。表現力が豊かなのは言うまでもなく、なんというか”自然”だった。役者も背景も、その何もが枠からはみ出すことない世界観を構築しており、本当に現実の世界の一片を切り取ったような、そんな体験だった。

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出典:https://akaneiro-movie.com/

*JUNK HEAD*(監督:堀貴秀

ここまでとは全く毛色の違う作品を(笑)

堀監督が7年の歳月を費やして制作されたストップモーションアニメ。ほぼ全ての作業を堀監督お一人でこなされたのだから驚きである。

ぼくは前情報ほとんどなしで観たが、それが正解だったと思う。物語のイントロダクションから中盤まで、世界観がよく理解できないまま、ジェットコースターに乗せられたような展開に振り回される。それはともすれば死と隣り合わせの世界で、一歩間違えれば、真っ二つになってしまいそうなスリルと高揚感を堪能できるのだ。

一言でいえば、非常に個性的な作品だと思う。監督のセンスが素晴らしいのだと思うけれど、とにかく背景であれキャラクターであれ小物であれ、どこかで見たような、でも見たことのないような造形で、良い意味で気味が悪く愛らしい。

だから一瞬たりともスクリーンから目が離せない。次はどんなシーンが出てくるのか先が気になって楽しみになる。

この作品の主人公は紛れもない自分だと、そう思えるアドベンチャー作品だった。

3部作の1作目ということで、あと2作も非常に楽しみです。

※なんと2022年2月現在、Amazon Primeで配信されているようなので、良ければ是非。

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出典:https://gaga.ne.jp/junkhead/

*僕が跳びはねる理由*(監督:ジェリー・ロスウェル)

映画素人の自分はドキュメンタリー映画というものを無意識に避けていた気がする。非現実の世界を描き出すことが、映画の、創作の醍醐味だと思っていたから。それがこの作品に出逢ってから、ドキュメンタリーの素晴らしさに気づいた。

原作の東田直樹さんは自身も重度の自閉症ながら、パソコンおよび文字盤ポインティングにより、コミュニケーションが可能とのこと(ご本人の公式サイトより)。

ぼくはこの映画を見て、2021年一番の驚きを覚えたといっても過言ではない。自閉症の方と過去に関わりのある方は誰でもそうなのではないかと思う。

ぼくには小学生の頃に自閉症の同級生がいた。言葉でコミュニケーションを取ることはできなかったけど、絵が素晴らしく上手で、感情表現が豊かだった。ただ、彼の気持ちを、言葉を本当の意味で知ることはなかった。何か、一生懸命に伝えようとしていることは分かるのだけれど、理解できなかったのだ。当時はそれは仕方のないことだと思っていた。

しかし、自閉症の方も、東田さんと同じように文字盤ポインティングなど、何かツールを使用すれば、私たちと同じ”言葉”で気持ちを伝えることができるのだと、この映画は伝えていた。こういった表現は失礼にあたるのかもしれないが、とにかく驚きだったのだ。

同級生の彼も、伝えたかった言葉がもっとあったのではないかと思うと、残念で、悔しくて仕方ない。それでも、この映画が(原作が)きっかけとなって、かつてのぼくたちを遮っていたような壁が取っ払われればいいと強く願う。

映像作品としては、幕間に挿入される自閉症児のジム・藤原君がロンドンの大自然を遊ぶように駆け抜けるシーンが美しい。カメラワークが見事で、藤原君の純粋さ、無垢さを際立てせている。彼の一日をずっと見ていたいと思わせるような、心惹かれる映像である。

ドキュメンタリーが現実を世に伝える作品ならば、今作は、現実を現実として、いやそれ以上の現実性という質感を宿している作品だと思った。

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出典:https://movies.kadokawa.co.jp/bokutobi/

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