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【映画感想】ラバー、ストーカー、キラー

※ネタバレ注意※

 Netflixのドキュメンタリーは良質なものが多いので、期待しつつ視聴。それを裏切られることなく、ドキュメンタリーであるのに映像は美麗で凝っており、流石といったところ。また、テンポ、リズムが素晴らしいと感じた。インタビュー、再現ドラマ、当時の映像が交互に淀みなく流れ、それにDM着信を模したピコン!がアクセントになっている。

 前半部分はマッチングアプリを発端に整備士であるデイブがシングルマザーであるキャリの執拗なストーキングに悩まされる話。大々的にマッチングアプリと謳っているものの、あくまで導入に過ぎない感じもする。昔でいう出会い系サイト等でも起こり得るような。ただ、その”気軽さ”や、相手のことをある程度分かっているという”安心感”が、ストーカーとの遭遇率を高めているのは否定できないのかもしれない。
 キャリからのストーキングに悩まされる展開ではあるが、キャリは一切姿を見せない。そして、警察もその尻尾を掴むことができない。やや違和感を覚えるものの、デイブに感情移入し、見えざる恐怖に身が竦む。キャリの魔の手は元妻や子供、現恋人ともいえるリズにも及ぶが、彼女を守るため、デイブは一緒に暮らすことを選ぶ。ちょっとこれは理解できない。彼女と一緒に暮らすことで、本当に彼女を守れるのだろうか。やがてリズの家が放火されるという最悪の事態が起こってしまう。

 後半は警察にスポットが当たる解決パート。ここからまた、グッと面白くなる。DMのIPアドレスを解析した結果、ストーカーの正体はリズの”自作自演”ということが明らかになる。物語序盤でなんとなくリズを怪しいと思ったし、キャリの姿が見えない違和感があったものの、過激なストーカー演出で雲に巻かれてしまっていた。キャリの顔が反転し、リズに取って代わる演出は彼女の恐ろしさを良く表している巧みな演出だと思った。

 ストーカーの正体がリズと判明し、次の疑問が浮かぶ。

 「…じゃあ、キャリはどこに?」

 警察は囮捜査も駆使しながら、キャリの行方を捜し、同時にリズを追い詰めていく。日本では囮捜査は禁止だった気もするけれど(違うかもしれない)、アメリカだと手段を選ばない清濁併せ吞む捜査をしていて、見応えがあった。最後の裁判シーンまで息のできない張り詰めた展開で、不謹慎かもしれないが、非常に面白かった。
 ハッピーエンドとは言えない。キャリの命は戻らない。けれど彼女の名誉が戻ったことは、母親にとって唯一の救いではないだろうか。
 哀しく悲劇的ではあるものの、タトゥーの伏線は映画的にお見事。デイブがキャリに初めて整備工場で逢ったときに車の下から見えていたタトゥーが、結果的に彼女の死を証明することになってしまったのは皮肉にもならない。

 謎はいくつか残っている。リズが豹変してストーカーになった動機は何なのだろうか。病気や薬の影響なのかもしれないが、気になった。彼女の口からいつか答えが聞けたら、と思う。

余談。映画視聴後にレビューを少し回ったら、「予告で大どんでん返し!とあるから展開が読めてしまった」といったものが多かった。ぼくは特に事前情報を入れずに観たおかげで、肩透かしを食らうこともなかった。やはり映画は無垢の状態で楽しみたい。

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