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【映画感想】ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語

※ネタバレ注意※


Netflixで視聴。

 ウェス・アンダーソンはアステロイド・シティで初めて出逢い、その独特で浮世離れした作風に驚かされた。淡いパステルカラーな色彩設計、観客を置いてけぼりにするようなスピード感、現実と虚構をふらふらする寄る辺なさ。慣れるまではやや抵抗感があったものの、そのお洒落で先鋭的な絵と、「よく分からなさ」がくすぐってくる探求心がなんとも癖になった。

 二作目ながら、本作もまさにウェス・アンダーソン監督の作品。矢継ぎ早に語り手が変わってくスピード感に戸惑いながらも、その展開の早さに画面から目が離せない。物語もリアルなのかフェイクなのか、絶妙なラインを反復横跳びして、視聴者を魅了する。

 まず何より、絵が賑やかで楽しい。豊かな色彩が溢れ、それだけで目を楽しませてくれる。紙芝居調に画面がころころ変わっていくのも面白い。様々な建物や内装も登場するが、個人的に気に入っているのが、後半に登場する
高級カジノのエントランスのデザインだ。青と白の爽やかな配色でポップでありながら、高級感も漂い、もしこんな場所があるなら訪れてみたくなる。

 また、ところどころにクスッと笑える小ネタが挟まれているのも見逃せない。二人目の語り手である医師は、無表情でこちらを見つめながら早口に捲し立てるが、画面内で事件が起こり、そちらに注目が向いている最中なのに、わざわざこちらを振り向いて話すのが面白い。しつこいくらいにそれを繰り返すので、人によっては辟易してしまうかもしれないが、個人的には何回も繰り返すからこそ面白いと思った。また同僚であるマーシャルに絡むシーンも面白い。「マーシャルは顔をこわばらせた」のあとにマーシャルがこちらを振り向く演出はもはやギャグだろう。第二の語り手である『目を使わずに見る男』も「彼でなければ虎です。・・・彼でした」のシーンは間が絶妙で笑ってしまったし、ヘンリー・シュガーの「彼には兄弟がいない。・・・彼の顔にした」もツッコミどころがある。ところどころにエッジの効いたシニカルな笑いが挟み込まれているのも魅力だろう。

 勿論、絵や小ネタのガワだけでなく、先が気になるストーリー構成だと思ったし、物語終盤で実話だと明かされるのも盛り上がるポイントだろう。(実際は実話かどうかは知らないが)。やはり、リアルと虚構がないまぜになったシームレス感も物語に引き込まれる一端を担っていると思う。

個人的に残った謎としては、
①『目を使わず見る男(カーン)』に対しての、「たまに死ぬ」とはどういう意味?→人は気づいたら朝目覚めず亡くなっていることがある。人の死とはありふれたものという提示?
②ヘンリー・シュガーは血栓に気づいておきながら、何故手術で取り除かなかった?→当時の医療として不可能だった?寿命を受け入れ、それまでにできる慈善事業に費やした?
③ヘンリー・シュガーの本名についてあそこまで言及した意味は何か?→結局明かされることはなく、かつそこまで興味を惹かれる内容でもない
などだろうか。

ただ、こういった謎が残ったままになるのも作品の魅力の一つだと思う。よく分からない作品というのは、考える余地を残してくれるからだ。

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