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【有価証券報告書から読み解く】人的資本経営の現状〜男性育児休業取得率編

2024年3月期の有価証券報告書から人的資本経営の実態を読み解く!
こちらの記事の続編になります。

この記事では、男性育児休業取得率を取り上げて分析をしていきます。


男性育児休業取得率の計算方法


男性育児休業取得率の計算においては、以下のスライドの通り、
❶育児休業等の取得割合
❷育児休業等+育児目的休暇の取得割合
のいずれかを企業が選択できるようになっています。

また、計算における分子と分母が「男性労働者の数」になっていることもポイントです。
分子と分母の男性労働者が同じ人とは限らないということです。
例えば、前年度に配偶者が出産して、今年度に育児休業を取得した場合は、分子に男性労働者の数はカウントされるが、分母にはカウントされない現象が発生します。
このため、男性育児休業取得率は100%を超えるケースもあります。

厚生労働省資料


男性育児休業取得率の開示率


有価証券報告書の提出会社が開示しているかどうかで見ています。

提出会社の分は開示をしていなくても、連結子会社の分は開示をしているケースがありますが、このようなケースにおいては、開示なしとしてカウントしています。

3分の2は開示しているが、3分の1は開示していませんでした
これは提出会社の従業員数が影響していると思います

前回の記事でもご紹介しましたが、
上場企業といえども、すべての企業に多様性3指標の公表義務があるわけではないのです。
従業員数によって公表義務が変わってきます。

男性育児休業取得率については、従業員数1,000人超であれば、有価証券報告書上での公表義務がありますが、100人超1,000人以下であれば、女性活躍推進法で公表している場合のみ、公表義務があることになります。

実際、従業員数の区分で見たところ、
開示率は従業員数に比例していることがわかります。
開示義務のない100人以下のケースでは開示率が12%でした。

ちなみに2025年4月からは、従業員数が300人超の企業まで公表義務が拡充されます。



男性育児休業取得率の中央値・平均値・標準偏差


さて、ここから男性育児休業取得率の数値を見ていきましょう。

全体を俯瞰したあと、
市場区分別・従業員別・業種別で細かく見ていきます。


全体


以下は、横軸に男性育児休業取得率、縦軸に企業数をとったヒストグラムです。
計算方法のところでも説明しましたが、
男性育児休業取得率は100%を超えるケースがあるのが特徴的です。

また、ヒストグラムに二つのコブがあるのも特徴的です。
これは計算方法が二種類あって、企業が選択できるようになっていることが影響しているかと思います。

平均値・中央値で60%ぐらいですね。



市場区分別


プライム・スタンダード・グロースの東証の市場区分だけで見ると、プライムが高いですね。
男性育児休業取得率はコントロールしやすいので、統制力がしっかりしている大企業ほど高くなりやすいのだと思います。

従業員区分別


従業員数別に見てみると、その傾向がよくわかります。
日本を牽引するような大企業の多くが男性中心の組織だったことがわかりますね。
ただ、中央値についてみると、微妙ですが、3,000人超が、300人超3,000人以下を少し上回っていますね。

業種別


業種について、東証では33区分と17区分の二つがありますが、ここでは、複雑にならないよう17区分で見ています。

中央値トップは銀行でしたね。
上位は金融系・エネルギー系が多いですが、そもそも企業数も少ないという特徴もありますね。

見にくいですが、箱ひげ図にすると以下の通り。

PBRと男性育児休業取得率との相関


男性育児休業取得率を上げることが企業価値の向上につながるのか?

企業価値をシンボリックに表す指標としてPBRに着目し、PBRと男性育児休業取得率の相関をとってみました。

・スケールを合わせるために対数(log)をとっています
・PBRについては、上下1%タイル値を外れ値とみなして除外しています。

どうでしょう?
相関係数は-0.03です。

男性育児休業取得率と企業価値との間には相関はなさそうですね。


さいごに


いかがでしたでしょうか。

これからの時代、
多様性3指標は単なる成果指標でなく、自社の企業価値を社内外に発信するための有効なツールになりうると思います。

当然、将来の競争力を高めていくためには、単に多様性3指標の比率を上げるだけではなく、その質をあげ、女性の活用に向けた投資を加速できるかどうかは大事になってきますね。

自社の価値創造ストーリーを効果的に発信できるよう、世の中と自社の状況を比較しながら、指標改善に向けた取り組みを行っていきましょう。


次は、男女間の賃金格差です。


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