第十二章 想い出⑩
「もう、出逢う事もないだろうけど……幸せそうで良かった。これで最後、かな……」
「せやな……梨紗とは色々あったけど……一哉さんと幸せになるんやで」
あたしは……。
苦しくて、席を立った。
控室へと戻って、ワアワアと声を出して泣いた。
こんなに泣くのは、久しぶりの事だった。
涙は、あふれてきて止まらない。
岬の中では、もう完全に過去になっているのに……。
あたしってば、まだ引きずってるの?
バカなあたし!
そこへ、よっちゃんが控室へと入ってきた。
「梨紗?!どしたの?何か言われたの?!お客さん帰るまでに戻ってお見送りしないと」
「よっちゃん、どしよ……見送りなんて」
「喧嘩でもしたの?大丈夫だから、とりあえず落ち着いたら下降りておいで」
よっちゃんの優しい言葉に、ますます涙がこみ上げてくる。
だが、急いで化粧直しをして、あたしは席へと戻った。
「梨紗?ちゃんと着いててよ。他にもお客さん来てるの?」
「来てるよ」
「そなんだ?回ってきたの?」
「うん」
「そっか。今日さ、帰り遅くなると思うから」
「分かったよ」
一哉は、当たり前だけれども普通だった。
そんな一哉の前では、笑顔でいる事しかできなかった。
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