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観た映画の感想 #74『SISU/シス 不死身の男』

『SISU/シス 不死身の男』を観ました。

監督、脚本:ヤルマリ・ヘランダー
出演:ヨルマ・トンミラ、アクセル・ヘニー、ジャック・ドゥーラン、ミモサ・ヴィッラモ、オンニ・トンミラ、他

1944年、ソ連に侵攻されナチスドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド。老兵アアタミ・コルピは掘り当てた金塊を隠し持ち、愛犬ウッコとともに凍てつく荒野を旅していた。やがて彼はブルーノ・ヘルドルフ中尉率いるナチスの戦車隊に遭遇し金塊と命を狙われるが、実はアアタミはかつて精鋭部隊の一員として名を馳せた伝説の兵士だった。アアタミは使い古したツルハシ1本と不屈の精神を武器に、次々と敵を血祭りにあげていく。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/99398/

こういう映画がシネコンでかかるってすごく良いことだと思う。

ひと昔前のB級アクション映画をもっと残虐にしたみたいな、ともすると安っぽく観られかねない映画ではあるんですけど、それも敢えて狙ってやっているというか、映画を作るのが上手い人が作った映画だってことが観てると分かるんですよね。

例えば主人公のアアタミは最後の最後にあることを言うまで台詞らしい台詞が一切ないけど、でも彼がどういう人間なのかっていうのは映画を観てると伝わってくる。ここらへんは『マッドマックス 怒りのデスロード』に似てる語り口(「行って、引き返す」脚本なあたりもマッドマックスっぽい)。
それはともかく、アアタミの台詞がなくても彼の人となりは例えばナチスが伝え聞いてる兵士時代の伝説だったり、捕虜になってる女性が語る「アアタミがどういう意味で不死身なのか」っていうことなどなど、他の登場人物の台詞からも分かるし、あとはアアタミがずっと身に着けてる指輪

アアタミは映画を通じていろんなものにまみれるんです。
それは砂埃だったり泥だったり水だったりガソリンだったり、あるいは敵の血だったり。でもどれだけアアタミが汚れまみれになっても、彼がしてる指輪だけはずっとピカピカなままなんです。
それだけで彼がどれだけ家族を大事にしていたか、今でも大事に思っているかが分かるし、転じて家族を奪ったソ連兵への憎しみがどれだけ深かったかも分かる。勿論演じたヨルマ・トンミラさんの演技力の賜物でもあります。ふとした時にものすごく悲しそうで優しそうな顔をするんですよね。

一方で敵側のナチスも作中でやってることは(勿論歴史的にも)本当に同情の余地なく悪なので、この手のいわゆる”舐めてた相手が殺人マシン”映画のやられ役としてはこれ以上ない適役なんですけど、戦車隊長のブルーノなんかはドイツが戦争に負けるのがもう分かっていて、国に帰っても戦争犯罪人として処刑されるだけなのも分かっている、要するに自分たちが完全に「詰み」だってことが分かっていて、だからこそアアタミの金塊に運命を賭けるしかないっていうある種悲壮感のある敵になってるわけですよね。やってることは本当に吐き気をもよおす邪悪だしそもそも泥棒なんだけど。

90分ちょっとの映画にしては細かい章立てで進んでいくシナリオも「次は地雷原ステージ!」「次は水中ステージ!」っていう風にアクションゲームのステージが切り替わっていくようなテンポの良さがあって、非常に重い史実が背景にある映画でありながら「でもこれはそういう事実をベースにしたエンタメです!」って言い切るような明快さがあって良い。

アアタミの不死身さがあまりにも強烈すぎてもうギャグみたいになってるシーンもいくつかありましたけど、それも作中で言われてるんですよね。「彼は死のうとしないだけ」って。それにしたって(色々工夫したとはいえ)夜中に縛り首にされて明け方まで生き残るのはさすがに人間じゃないと思うけど……
あとツルハシが万能すぎるとも思うけど……飛行機への侵入の仕方があまりにも人間離れしすぎてて思わず笑っちゃいましたもんね。『M:I ローグ・ネイション』の冒頭でもイーサン・ハントの手にツルハシがあればベンジーのハッキングを待たずに輸送機に潜入できたかもしれない。

このシーンね

捕虜の女性たちが解放されてからの大立ち回りもマッドマックス的でかっこよかったし、無駄な描写がなくサクッと観られるコンパクトな上映時間も大変好みでした。

一つだけ文句を言うとしたら公式の「犬は無事です」アピール。

この映画、確かに犬は無事だけど馬が無事じゃないんですよ!
犬は死なないんだ~よかった~って映画館に行って馬が地雷で吹き飛ぶところ見たらショック受けちゃうでしょうが! もう!

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