観た映画の感想 #86『ファースト・カウ』
『ファースト・カウ』を観ました。
2020年製作の映画だけど日本で公開されたのが2023年の12月、そして僕が観たのが今月に入ってからなのでかなり遅れての鑑賞となりました。ミニシアター系の映画って普段はそこまで積極的にリサーチしないんですけど、今回はいつも聴いてるラジオ(アフター6ジャンクション2)でケリー・ライカート監督の特集があったので知ることができました。
聴いててよかったアトロク2。
小さい世界の地味~な話なんですけど、その切り取り方が上手くてしみじみと「良い映画だったな……」となる作品でした。カメラの動かし方も最小限だし、BGMも最小限、だけどその代わりに環境音の拾いかたが本当に丁寧で、画面に映っているその場にいるような臨場感があって。ああいう音使いって家のパソコンとかスマホで観ても生活音にかき消されてしまうと思うんで、これを体験するために映画館に行く価値は十二分にあります。
場面の切り取り方も丁寧というか、大作だったらシーンにならないような本当になんでもないような所作を撮るのが上手い。印象に残っててすごく好きなのがクッキーがルーの家に初めて案内されたシーンなんですけど、ルーに「くつろいでてくれ」って言われたのに手持ち無沙汰になっちゃって、目に入ったほうきで床の掃除を始めたり棚の瓶に花を摘んできて飾ったりする。
か、可愛い……
あとは仲買商の家に招待された2人が牛のところに案内されて「乳が全然出ないんだ」って言われて、牛乳を盗んでることがバレやしないかヒヤヒヤしてるけど牛は妙にクッキーに懐いてて変な空気になるところとか。ここも本当に可愛かったんだ。でもそれもクッキーが牛に対してずっと優しかったからなんで、シナリオ上の筋は通ってるんですよね。
やってることは盗乳(?)だけど。
「全部分かった上で振り返るとシーンごとの繋がりが分かる」というか、始まりと終わりが円環状になってるシナリオが個人的に結構好きなんですけど、それで行くと今作の始まり方と終わり方ってまさにそういうタイプなんで、観ててすごく「か、カッコイイ……!」ってなりました。
最初に発見される二組の白骨がクッキーとルーっていうのは映画を観てるとなんとなく察せるし、いくら楽しそうっていっても彼らがやってるのはれっきとした犯罪なんで、まあいつか報いがくるんだろうな、その結果が冒頭の白骨なんだろうな、っていうのも予想はつくんですよ。
なんやかんやあって逃亡する2人を、ライフルを抱えた男がずっと追いかけるシーンが挟まれるあたりでもう「結末」は決まったようなもんなんですけど、でも映画は決定的なその瞬間ではなくて、二人の間にある友情というか親愛というか、そういう温かいものが満ちた時間で終わる。凄く良い余韻なんですよ。
(余談ですが僕は「画面に映ってる人物が今取ってる行動とか会話の流れとかをぶった切って画角の外から狙撃されて死ぬ」シーンが下手なホラー描写より苦手なので、そういう意味でも本作の終わり方はとても良かった)
本当に静かな映画なんですけど、心地良い余韻がずっと続く一作でした。
ライカート監督の新作は残念ながら僕の街では劇場公開が(今のところ)ないんですけど、U-NEXTに入るようなので、配信が始まったら絶対に観たい。
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