観た映画の感想 #13『エンパイア・オブ・ライト』
『エンパイア・オブ・ライト』を観ました。
いやね、もうめっっっっっっっっっっっちゃ良かったです。
「映画がテーマの映画」って最近ちょいちょい増えてると思うんですけど(最近だと『エンドロールのつづき』とかでしょうか)、今作の何がよかったってまず映画愛が全然押しつけがましくなかったところ。例えば何か運命的な作品に出会って登場人物がめちゃめちゃ救われるわけでもないし、(作中ではサッチャー政権下の1980年代で黒人への差別運動も描写されてはいるけど)映画には差別や分断を乗り越える力があるんだ!みたいなことをぶち上げるわけでもない。
どうしようもない生きづらさを抱えて苦しくなっている人がいて、ただ彼らとともに「在る」だけ。この映画における映画、ひいては映画館という場所そのものってそういう存在なんですよね。
だからこそ、終盤にヒラリーが「映画が見たい、映画を見せて欲しい」って映写技師のノーマンに頼んで映画を見せてもらう流れがとても沁みる。
ヒラリーは自分ではどうにもままならない生き方をずっとしてきた女性として描かれていますよね。親からの愛情にあまり恵まれなかったらしいし、支配人からは都合のいい浮気相手というか性処理の道具みたいな扱いだし(支配人役のコリン・ファース、コリン・ファース史上最低のクズ野郎なコリン・ファースなんですけどああいう役も上手いんですね。さすがだ)、そもそも統合失調症を患っていて自分の感情ですら自分自身でコントロールするのが難しい。
そんな彼女がようやく自分の人生を自分で選択して生きていく、その第一歩があの「映画が見たい」なわけで。
そこでノーマンがチョイスした映画が『チャンス』なのも粋~~~~!!
周りの人間がどれだけ大騒ぎになろうとも関係なくあるがままに生きてるチャンスの姿って、ある意味ではこれから自分の人生を生きようとするヒラリーの姿でもあるわけで。もう一回言う。ノーマン粋だねえ~~~!!!
あとは映画館という施設自体のカッコ良さがバシバシ伝わってくるカットの数々も良かった。エントランスホールや映画館の中側から見た出入口をシンメトリーにドーン!と映すカットは『スカイフォール』とかでもよく見たサム・メンデス監督×ロジャー・ディーキンス撮影監督お得意のやつでしょうし、使われなくなったフロアの手入れされてなくて荒れてる・でもそれゆえの秘密基地っぽいわくわく感とか。自分の街にあんな劇場があったら絶対通っちゃうと思う。
人種差別問題のところで結構キツめの展開があったり、現実でも稀によくいるクソカスタマーの描写が妙に解像度高くてうわぁ……ってなる部分はありました(あとPG12指定なだけあって性描写も結構露骨)けど、観終わった後はなんというか、なんか人生うまくいってねえなあ~~~……って気分が落ち込んだ時に何も言わずに温かいお茶と毛布を差し出してくれるみたいな、そういうじんわりとした暖かさが残る映画でした。
個人的には大好きになった一作。
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