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観た映画の感想 #84『コンクリート・ユートピア』

『コンクリート・ユートピア』を観ました。

監督、脚本:オム・テファ
出演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン、キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン、他

世界を未曾有の大災害が襲い、韓国の首都ソウルも一瞬にして廃墟と化した。唯一崩落しなかったファングンアパートには生存者が押し寄せ、不法侵入や殺傷、放火が続発する。危機感を抱いた住民たちは主導者を立て、居住者以外を追放して住民のためのルールを作り“ユートピア”を築くことに。住民代表となったのは902号室に住む職業不明の冴えない男ヨンタクで、彼は権力者として君臨するうちに次第に狂気をあらわにしていく。そんなヨンタクに傾倒していくミンソンと、不信感を抱く妻ミョンファ。やがてヨンタクの支配が頂点に達した時、思いもよらない争いが幕を開ける。
(映画.comより)

https://eiga.com/movie/100065/

2024年初映画です。

期せずしてタイムリーなテーマになってしまったので、こういうのも憚られる気はするんですが、めちゃくちゃ面白かったです。大傑作。

マンションブームと集合住宅の建設ラッシュに乗って物凄い勢いで団地が作られていく短いオープニングの後、劇中での主な舞台となるマンション以外はすでに災害で壊滅しているところから物語が始まるので、言ってみれば映画が始まった時にはすでに全ての登場人物が極限まで追い詰められているわけです。食料を手に入れるのも一苦労だし治安が悪化して刃傷沙汰も起こる。それでも序盤はまだちょっと笑えるところもあるんですよね。住民代表を決める会議のシーンで、おじさん二人が(今起きていることに比べれば)しょうもない理由で喧嘩を始めるところとか。お前らほんとにしょーもねえなあ! っていう。

だけど(これカルト化してない……?)っていう得体の知れない不穏さはずっと漂っていて、それが一気に牙を向いてくるのがマンションでの生活ルールをプロモーション映像風に紹介するシーン。
あのマンションの住民が、わざわざ他人にコミュニティの様子を紹介する必要はないんですよ。なぜならその前段階として「元からマンションに入居している住民以外の居住は認めない」っていう決定をして、実際に居座ってた人達を追い出した後だから。つまりあのシーンで語りかけられてるのって観客たる我々なんですよ。言ってみればファングンアパートが”マンション教”の総本山になっていく過程を見ていたらその住人が突然語りかけてきたみたいなもんで、個人的にはこのシーンが一番ゾッとしました。
ここ、婦人会の会長役のキム・ソニョンさんがまた良い演技をするんですよこれが。住民代表が決まる前からてきぱきと物事を仕切るところはたびたび描写されてて、ヨンタクが代表になってからは彼の有能な副官。ニュースとかでもたまに見る新興宗教の広報ってまさにああいう感じ。

で、このプロモーション風シークエンスの最後に排泄物をまとめて深い縦穴に捨てるシーンが出てくるわけですけど、「カルト」と「不要なものを廃棄する場所」が揃ったら絶対にこれがロクなことに使われないのは分かりきってるじゃないですか。ここも嫌~~~なシーンだったなー。

マンションの中で食糧が尽きれば当然外に探しに行くわけで、持ってる人から略奪したりもするわけですけど、コミュニティ外の人間には普通に非道を働く一方でマンションに戻れば戦利品の食料で宴会開いたりカラオケパーティーしたり、コミュニティの一員として適応してるぶんには楽しそうっていうのもカルトの生々しさがあって嫌さがすごい。

そのカルトのカルトらしさを体現する存在としてのイ・ビョンホンの怪演もとにかく凄まじかった。この映画でのイ・ビョンホン、いわゆる韓流スターのオーラが1ミリもないんですよね。言われなきゃイ・ビョンホンだと分からないくらいにツヤがなくて、実際出演者の名前を確認するまで(この人ぜったいに何かで見たことある俳優なんだけどなー誰だったっけなー……)とか思ってたくらいで……
(余談ですが『インターステラー』を観た時、マン博士役のマット・デイモンに対してもこの俳優めっちゃマット・デイモンに似てるなー……と思ったことがある。)

オーラなさすぎである

とにかく目にも肌にも髪の毛にも光がない、虚ろなまま狂っていくイ・ビョンホンを見るだけでも一見の価値がある。

面白かったんですけど、一つ不満を挙げるとするなら画面が終始ひたすら暗かったことです。「真っ暗」って感じの暗さではなくて、リアルに暗くなってるのに明かりがない時の絶妙に見えそうで見えない暗さ。作中ではライフラインが全部止まってるわけだからリアリティはあるのかもしれないけど、それにしたって何してるのか分からない場面が多すぎたので、そこは少しくらい映画的なウソついても良かったんじゃないかなって気はします。でもこの暗さが最後の、ステンドグラスに光が差し込むシーンの圧倒的な明るさとの対比になってる気もするのでやっぱりあの暗さは必要だったのかなとも思うし難しいところですね……

最初に書いた通り、期せずしてタイムリーなテーマになってしまったわけですけど、話の骨子は(例えば『es[エス]』みたいに)異常な状況に置かれた人達が異常に飲み込まれていくってことですし、作中の人達は最後の最後でミョンファが言うようにみんなどこにでもいる普通の人達だったわけで、今こういう状況だからこそ「もし自分がマンションの内/外の人間だったら」「自分だったらどの立場を取るか」ってことをより真面目に考えながら観ることにもなりました。今この時点で万人におすすめはしづらいですけど、いつかは観て欲しいなと思います。映画としては本当によくできた一作なので。

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