観た映画の感想 #56『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』を観ました。
上映形態について
内容についてあれこれ言う前に、今作に関しては上映形態について明確におすすめしておきたいことが一つあります。
よっぽど強いこだわりがあるか、英語力に自信があるとかでもない限り、少なくとも1回目に観る時は吹替版で観ることを強くおすすめします。
なぜかというと今作のキーアイテムであり、ある意味ではもう一人の敵とも言えるAIの訳が字幕だと非常に分かりづらいから。まずこれ、作中だと「Entity」と呼ばれています。
元々は単なるAI兵器だったものが自律して学習するようになり、実体を持った脅威として存在するようになってしまった、というわけで、確かに在るモノとしての「Entity」って単語の意味としても敵の名称としてもなかなか上手いネーミングだと思うんですが、字幕版だと一貫して「”それ”」。この訳がもう本っっっっっ当に分かりづらくてですね……
登場人物みんな「AIが"それ"になった」とか「"それ"が敵の手に渡ったら」みたいな台詞で会話する(ように訳されている)せいで物の名前がパッと思い出せない老人同士みたいな会話になってて話の内容が頭に入ってこないことこの上ない。
ただでさえ、今回の話って少し複雑なんですよ。
いつもなら世界を危機に陥れる何かしらの兵器(大抵は核だったりウイルスだったりするわけですけど)をイーサン達と敵で奪い合うっていうのが大まかな流れですけど、今回は奪い合う兵器に当たるものが自分で考えるAIで、敵も攻撃してくるけどAI自身もイーサンに攻撃を仕掛けてくるっていうこれまでとは少し違う話の構造になっていて、そういう中でどいつもこいつも抽象的で的を得ない話をしている(ように見える)から本当に話が入ってこない。
あまりにも話が分からなすぎて、観ている間ずっと「ミッションインポッシブルでこんなにノれないことあるか……?」「それとも俺の理解力が乏しすぎるせいなのか……?」と何度も思いました。
吹き替えだと「Entity」はAIの名称的に(要は一つの固有名詞として)「エンティティ」と訳されていて、こっちのほうがずっとスマートだし意味もよく通る。これで良いじゃん! なんだったんだよ”それ”って!!!!
トム・クルーズ主演作ということで字幕翻訳はもちろん戸田奈津子氏。
もう何百回も何千回も言われてることだと思いますけど、いくら文字数上の制約があろうと意味が通らない意訳は訳としてはダメでしょう。”それ”以外にもイーサンに対して距離感のある言葉遣いをするはずのないルーサーが「君」って言ってたり、違和感のある訳のオンパレードで。インディジョーンズの新作でどう見てもウツボなのに「eel」って台詞だけで「ウナギ」って訳を当ててたのも最近だとかなりアレだなって思いましたけど、映画業界はこの人ほんといい加減どうにかしてもらえませんか……
ミッションインポッシブルには”大作すぎ”ないで欲しい
前作の『フォールアウト』を観た時に、あれもすごく楽しい映画ではあったんですが一つ危惧していたことがあって。
このシリーズ、ちょっと真面目な作風に寄っていってない……?
というかより具体的にはダニエル・クレイグの007みたいな作風になっていってない……?
っていうことなんですけど。
ミッションインポッシブルは個人的には5作目の『ローグネイション』が最高傑作だと思っているんですが、何か危機が迫る→それに立ち向かう→その過程で何かしらのキーアイテムを巡る敵との奪い合いが起きる→ギリギリのところで勝つ、っていう基本的な流れがあまりシリアスになりすぎないテンポ感で進んでいくっていうバランスが完成したのが『ローグネイション』っていう認識。なんですけど、『フォールアウト』は(特にアクション以外のパートが)シリアスで重めの作風に変わってきて、そっちの方向性にはあまり行って欲しくないなーと思ってたわけです。
でも今作は更にシリアスで真面目な路線に進んでて、(字幕翻訳がどうのこうのがあったとしても)いまいち話に乗り切れないなーと思うこと多々。あと単純に、エンティティを手にするための鍵の奪い合いで3時間弱は長い……アクションは今回も凄いんだけど、重くて長いストーリーとミッションインポッシブルのアクションってそもそもあまり食い合わせが良くないんじゃないかとも思う。話の部分とアクションが分離してしまってて、一つの線として繋がっていってない印象がありました。
とは言えやっぱりトム・クルーズ
さっきから文句ばっかり言ってるけど、楽しいところもいくつもあるんですよ。ストーリーと上手く繋がってないとか言いましたけど、それでもアクションそれ自体はどれも破格だし見ててうおぉっ! ってなりますし。
『トップガン マーヴェリック』もそうだったけど、どんな映像もCGで作れるし新作だって配信で観られる時代に、トム・クルーズがわざわざあそこまで過剰に肉体を酷使したアクションをやり続けるのは実際に俳優が体を張ることでしか作れないものがある、それが観客を心から楽しませる方法だって彼が本気で信じているからだし、実際に本気で体を張っている様っていうのがちゃんと作品の色として刻印されているじゃないですか。
あんな無茶なこといつまでも出来るわけないんだし、自分が主演俳優でもありプロデューサーでもある(だから他の俳優だったらストップがかかるような危険な真似も止める人がいない)っていう唯一無二な立ち位置も含めて、こんな映画撮る人は今しか見られないわけですよ。だからこういう映画をまだ作ってくれるってことに対してはまず何よりも感謝したい。「えっ!? まだそんなことしてくれるんですか!!?」っていう。
単体の作品としては結構辛めの評価になってしまいましたけど、まだ2部作の前半ですから。PART2が公開された時に手の平グルッグルに返してる可能性も十分あります。ていうかむしろ返させてくれ!!
マッカリー監督との相性も良いっていうのは分かりきってますし、ヘイリー・アトウェルとポム・クレメンティエフもどちらも今までのシリーズにはあまりいなかったタイプのキャラクターを演じてたのでもっと活躍が見たい。そこにイルサもいて欲しかったけど……
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