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じいちゃんの事 「とんび」重松清

 「とんび」を読んでいると、思い出す人がいる。じいちゃんだ。
地方都市でいっしょうけんめい働いて家族を養い、曲がった事が嫌いで頑固で怒らせると怖くておっかなくて不器用でお酒が好きな九州男児。
じいちゃんはそういう男だった。
小さいというには広くて、大きな道路が前にある一等地の場所に中古車販売・買取の会社を立ち上げ、従業員を雇い社長として会社を切り盛りした。
私が子供の頃、じいちゃんのお店に行った時はもう会社を畳む前で、従業員はじいちゃんとばあちゃんの2人と叔父さんしなかったが、クーラーの効いた自分の会社の事務所で麦茶を飲むじいちゃんは誇らしげだった。自分の手で会社を切り盛りし、3人の子供を育て、生きてきた誇りと自負のようなものが感じられた。

「100歳まで生きる」それがじいちゃんの口癖だった。
夕方には散歩に行き、大相撲を見ながら自分でレンジでチンしたお酒をガブガブ飲み、ばあちゃんを連れてあちこちに旅行に行き、大好きなカラオケの大会で一張羅のスーツを着て演歌を歌うじいちゃんは本当に100歳まで生きるだろうと思った。
盆と正月にしか来ない6人の孫の中で唯一離れた所に住んでいた孫の私が来た時は、一張羅のスーツを着てタクシーを呼び、地元で一番大きな(多分県内で一番大きな)中華料理屋さんに連れて行き中華のフルコースを食べさせてくれたじいちゃん。私が地元の国立大学に現役合格した時は大喜びでお祝いのお金をくれ、土日に遊びに来る私を受け入れ、高校の時の友達が遊びに来た時にも喜んで彼らを泊めてくれ、私に3人で行く焼肉代をくれたじいちゃん。
1人だけ、早い内に夭逝した孫娘のために毎朝お線香とお経を上げていたじいちゃん。
孫たちから「じいちゃん、じいちゃん」と呼ばれると嬉しそうにしていたじいちゃん。
そんなじいちゃんに、私は不義理をしてしまった。

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