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商品やサービスの開発に、なぜターゲットユーザーの設定が必要なのか?

こんにちは。トークアンドデザイン代表の今西(@no_imanishi)です。

自分も気づけば20年いろいろなビジネスに関わってきて、その間に世の中進歩したなと感じることも多い一方で、昔感じていた問題が今でも垣間見えて、大丈夫かな…と感じることもあります。
ここでは、大丈夫かなと思ったことの一つ、さまざまなプロダクトの開発の際に登場する、「ターゲットユーザー」(あるいはターゲットカスタマー、ターゲットセグメント)についてお話ししたいと思います。

※カスタマーとユーザーはほんとは別の概念ですが、ここでは類似のものとして扱わせてくださいね。

何かしらのプロダクト(形のあるものだけではなくて、無形のサービスなんかも含みます)を開発するにあたって、「誰がターゲットなの?」という会話は頻繁に登場するかと思います。そこで、いい会話はできているでしょうか?

個人的な体験を少し…

私はこの会話に少々苦い思い出があります。20代の私は電機メーカーでデザイナー(ここで言うデザイナーは、外観の造形、色彩、仕上げを考案したり、GUIのグラフィックや操作仕様を検討したりする人のことです)として働いていたのですが。。。。

商品企画さん「来年に向けた今回の新商品は、現行モデルに当社独自機能の〇〇が追加になります!金型も新しくなるので、デザインお願いします!」
「わかりました!この商品のターゲットユーザーはどんな人ですか?」
商品企画さん「え?……んー……。(不穏な空気)」
「(小声)あ、いや、デザインするのに、どんな人が買うのかな…と思って。」
商品企画さん「いやぁ…………。」
「(あ……いらん事言ったかな……)」

これ、一回ではなくて、どちらかと言うとかなりの頻度だったのです。恵まれた環境で様々な商品を担当させてもらったのですが、あちこちで起きます。
どうでしょう、昔の話として笑えるでしょうか?それとも今でも皆さんの身近にある話でしょうか?現在ではデザイン思考にUXリサーチにとユーザーとの関わりあう大切さが語られる場面は多いですが、そうはいっても当時とてマーケットインにフォーカスグループにと、それなりにトレンドはあったはずなのです。

さて、この話には続きがあって、いくつかのパターンがあります。

パターン1

商品企画さん「(ひたすら無言)」


無言は辛いです。何か悪いことを言ったかなと思います。こちらが泣いても喚いても何も出てこないということが分かるだけにツラみは増します。とにかく企画検討の中に、利用者や購入者という概念が全くなかったということは分かります。

パターン2

商品企画さん「いやまあそうですね、三十代から四十代のファミリー層ですかね。上位モデルですからやや収入は高いでしょうか」

一番多いパターンかもしれません。今でも行くトコ行くと見かけます。そしてこれ、意味のあるターゲットユーザーの定義になっていません。詳細を後ほどお話ししたいと思います。

パターン3

商品企画さん「新機能〇〇に魅力を感じる人です!(ちょっとやけくそ)」

もう開き直りですね。ほとんど循環論法です。でも、実は一概にバカにできないところもあります。これも後ほど詳しく。

ターゲットユーザーの設定はなぜ必要か?

原点に戻って、なぜターゲットユーザーの設定は必要なのでしょう?商品開発においてターゲットユーザーを考える本質的な理由は、ユーザーの持つニーズとプロダクトによって提供するソリューションがきちんと噛み合っていることを確認することにあります。(今風に言うと、Problem Solution Fitとなるでしょう。)

商品開発において考えるべき事の中核は、ひたすら「人々はどういう問題や望みを抱えているのか」「そういう問題や望みを抱えている人はどれほどいるか?どれほど深刻か?」「我々の提供するものはその問題を解決できるか?望みを叶えられるか?他のやり方よりも優れているか?」に尽きるかと思います。

ターゲットユーザーを設定するということは、ひとえに、どの問題や望みをこのプロダクトで解決していこうとするのかを決めることに他なりません。

先ほどのパターン2の様に、コンシューマー向けのプロダクトではしばしば20代/30代/40代とか女性/男性といった人口統計的な軸が使われることがあります。デモグラフィック(略してデモグラ)とか、言われるものです。端的に言って、マーケットをデモグラでセグメント化しても、商品開発において意味のある知見が得られることはあまりありません。デモグラによってカットされたセグメントの内側は、多様性が大きすぎてニーズ(問題や望み)が見えないからです。

セグメントを特定する方法は3つある。最も伝統的なのは、「35歳から50歳の女性」といったかたちで、デモグラフィック・グループに分割する方法である。この方法の欠点は、同じグループに属する女性が、同じ様なニーズや同じ様な購入意図を持っていると断定する根拠がないことである。

「コトラーのマーケティング・コンセプト」Philip Kotler / 東洋経済新報社

セグメント化して商品開発に役立つ知見を得るためには、そのセグメントごとでそのテーマに関するニーズが同一である必要があります。

言い換えるならば、同一のニーズを持つ人々の集団がターゲットセグメント(ターゲットユーザー・ターゲットカスタマー)ということです。ですから、ターゲットの記述は常に「〇〇という問題を持っている人」とか「〇〇を望んでいる人」といった形が中心となるべきでもあります。

パターン3をバカにできないというのはこの点です。新機能〇〇が本当に問題・望みをより良く解決するのであれば、その問題・望みを持つ人がターゲットであるということ自体はむしろ真っ当な話と言えます。ただし、その問題・望みが実在し、その背景を理解し、商品のその他の要素も含めた全体がそのセグメントに対して正しくコーディネートされ、価格や訴求メッセージや販路も含めて最適化されなければ、「言っただけ」にすぎないのですが。

ターゲットユーザーを決めると売上が減る!?

その頃の私を悩ませたことの一つに「ターゲットユーザーを決めると売上が減る」という意見がありました。今に至って、どう思われますか?笑い話だと思いますか?(笑い話と思われる様であって欲しいのですが、)当時は本当に、社内でも信頼の厚い人物から真顔で言われる事態もありました。

前述の通り、ターゲットユーザーを考えるということは、ユーザーの問題や望みを考えるということですから、商品開発の現場で避けて通るわけにはいかないはずなのですが…何がすれ違っていたのでしょうか。

今になって思うのは、人々の購買動機にどれほど多様性があるのかの認識が異なっていたのかなということです。「人々は多様なニーズをもっており、それゆえに購買動機も多様である」というのはマーケティングに関わる人なら当たり前すぎて言葉にすることも少ない前提ではありますが、社会あるいはマーケットを同質な人の集まりだとみなしていれば、確かに分けなくてもいいものを分けているという感覚になるかもしれません。

マーケットには競争があると言います。何を競争しているのでしょうか?競争という言葉が、スポーツを連想させるかもしれません。スポーツにはタイムや得点といった単一の評価基準で勝者と敗者を分ける性質があります。この性質に基づいてマーケットでの競争を捉えてしまうと、同じ様に、よい点数をとった商品が勝つ(売れる)、点数が良くないと売れない、点数を上げよう、点数をあげるためにとにかく機能を増やそう…という単線的な思考になります。これはマーケットにおける競争を正しく捉えていません。

マーケットは多様な人と多様な購買動機の集まりです。そしてマーケットにおける競争は、マーケットにいる多様な人々の問題や望みをどれだけ上手く解決できるかを競うものです。多様さ故に、どれほど多くのリソースを持つ会社であっても全ての人を満たすことはできません。誰のどの問題や望みに焦点を当てるのか、決めなければなりません。これがターゲットユーザーです。ターゲットユーザーを決めないというのは、誰の問題にもきちんと向き合わないということでが、ことにコンシューマープロダクトだと甘くなりがちです。

これは全くの経験的な皮肉でしかありませんが、「ターゲットユーザーを絞ると売上が減る」と言ってた人の事業ってシェア低いよねというのが実感ではあります。(皮肉で済めばいいのですが、その後、事業が無くなったり、会社ごとなくなったり、不幸なことがたくさん起きるので、笑ってばかりもいられません。これが弊社の根底にある問題意識の一つです。)

「誰の悩みに向き合うのか」が、自社ならではの個性を作る

提供者が購買者へ投げかける、他の選択肢よりも自社を選ぶべき理由を、「USP (Unique Selling Point / ユニークセリングポイント)」とか「Value Proposition (バリュープロポジション)」とか言ったりします。また「差別化」が大事だという話も、多くのビジネスパーソンが聞いた事があると思います。

USPもValue Propositionも差別化も全て、マーケットを構成する人は多様であるという考えの上になりたちます。マーケットを丸呑みすることはできません。多様なマーケットのどこに焦点を当てるか…についての独自の目線こそが、競合との有意義な違いを作り上げる源泉です。有意義な違いは、価格競争を回避する効果もあります。多様性のどこに焦点をあてるのかという議論から逃げることは、目を瞑って事業を行っているのと変わりがありません。

終わりに

技術や仕様を論ずることと比べて、人の問題や望みを論ずるのは捉え所がなく、苦しいなかでの開発では後回しになってしまうことが多いのだと思います。が、人の問題や望みを解決する対価として売上があるのですから、商品開発という仕事の柱にはやはり人の問題や望みが据えられるのが、持続可能な事業の姿ではないかなと感じています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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