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俺の夢 #3

 俺が仕事に行くときは、専ら電車を利用する。何故なら、俺は車をもたない主義だからだ。そう言えば格好がつく。しかし、ホントは車を買う金がない。そもそも、運転免許証すら持ってない。

 出勤の身支度を済ませ、いつものように駅に向かい、掃除機のノズルに吸い込まれるゴミ屑のように改札口に向かう。
 スマホを改札にかざして抜けようとしたが、警告音と共にバーが飛び出し俺の行方を遮った。「きっちり読み取りやがれ」と心の中で呟いたその横を、一陣の爽やかな風が吹き抜けた。

 艶のある、腰まで届きそうな ロングヘアー。白いシャツに膝上20cm以上はあろうかという黒いタイトスカート。綺麗な曲線を描く脚がタイトスカートから伸びる。思わず二度見をしてしまった。これは嘘、釘付けだ。

 もう一度スマホでタッチして改札を通り抜け、磁石のように見えない力で引き付けられるように歩きだした 。「美脚が素敵を"S極"とすると、何者でもない俺は"N極“か」なんて下らないことを心の中で呟いたところに、いかにも、という風貌の男が小走りで俺を追い抜いた。

 ホームに続く階段を上る。階段を見上げるとタイトスカートからスラリと伸びた美脚。またしても二度見をしてしまった。「それにしても、このタイトスカートってのはパンティが見えそうで見えない絶妙な設計だなぁ」と心の中で呟きながら視線を下ろした。スマホを手に持っていた事に気が付いた俺は、慌ててソレをポケットに突っ込んだ。

 俺と美脚の間に俺を追い抜いた男がいる。男の歩みが遅い。「さっさと歩けよ」と心の中で呟きながら男に目を向けると、男はスマホの画面を注視していた。遅いわけだ。手にはスマホを持っているが、やけに顔と画面が遠い。スマホを見ると、その画面には既視感があった。黒いタイトスカートの美脚だ。「あ、盗撮!」と心のなかで呟きながら、俺は無意識に男の腕を掴もうと、大きく一歩踏み出した。

 その刹那、深い谷底に落ちる感覚と脛の痛みで目が覚めた。我に返って周りをみると、俺は大してフカフカでもないベッドから落下し、その拍子に、会社から「読んでおけ」と渡された十冊の参考書の角、しかも固い方に脛をぶつけたことを理解した。

 こんな冴えない俺が、犯罪者を捕まえた功績として警察に謝辞を読んでもらうことは夢、ましてや、美脚の彼女の家に呼ばれ、フカフカのベッドの上で「助けてくれてありがとう」なんて言われて押し倒され、そのまま快楽の泉に堕ちてゆくことなんて夢のまた夢。

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