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(制作の中で)絵を描く事は治療、美術館は病院

【 作品「天狗鼻と、ぐでり」 2023 】https://no5kobayashi.buyshop.jp/items/71914684




"作者にとっての治療"

アーティスト・日比野克彦さんは著書「HIBINO LIFE」の中で「絵を描く事は作者にとっての治療である」といった事を語っていました。

「さあ絵を描いてやろう!」なんて意気込むと、気持ちがからまわる時があります。手を動かすだけでは運動。頭の中にあるだけでは妄想。身体に思考が乗って、はじめて"表現"になります。

じっくりと自分自身と対峙しないと、どこを治療すべきか検討もつかない。外の情報に振り回された末に絵を描こうとすると、からまわってしまう。日常の雑務に追われた後に、すぐに絵筆をとるのはなかなか難しい......絵を描く事がきちんと自分自身の治療になっているか、立ち止まって考えられる時間は大切だなと思います。

この創作に伴う治療に「完治」はないと思っています。
なぜなら、人は大なり小なり「自分以外」と触れて生きていく必要があるからです。暮らしの中で、「自分以外」と触れる事で、自分の中身が少しづつズレていく。ズレるというのは、「自分」の中心軸が元の位置にないという状態で、成長や変化とは似て非なるものだと思います。

「自分」を見つめる事は「自分」にしか出来ません。そして、見つめる行為には、言語化も一つの手段ではありますが、絵を描く事のような非言語表現を通じた思索も大切で、それが治療となるのかもしれません。

ちなみに先に挙げた「自分以外」という言葉は人のみを指すだけでなく、社会、自然(災害)といった概念的なものも含まれると思っています。治療は怠らず、されど一回の治療で決して欲を張らず、少しずつ治していくしかないのだろうとも思います。"ライフワーク"なのかもしれません。

"美術館は心の病院"

↑の文章(の草稿)を書いた1年ほど後「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(通称MIMOCA)」に足を運ぶ機会がありました。その際に会場内のキャプションの中に、ある言葉を見つけました。

「美術館は心の病院」

これは、美術館名にもなっている画家の猪熊弦一郎がMIMOCAを立ち上げる際に、どのような美術館にしたいかというインタビューの中で語った言葉です。

自身の名を掲げ、構想にも携わった美術館に対し、襟を正して訪れるようなかしこまった場所ではなく、遊びに来るような感覚で気軽に立ち寄って美術館で心の悩みを治して欲しい、という想いがあったそうです。

今でこそ「美術館を市民の身近な場所に」という動きは珍しくありません。しかし今から30年以上前に、丸亀駅のすぐそば(徒歩1分!)に美術館を建てて物理的にも心理的にも身近な場所に仕立てていたというのは、さすが”モダン”な作品を生み続けた事だけあるなと関心してしまいました。


"作品という処方箋"

ここで話を「創作活動は治療」という言葉に戻します。
作者が自身の”治癒”のためにつくった作品が、美術館に飾られて誰かの心を治す(癒す)。美術館が病院ならば作家は医者、作品は処方箋とでも言えるでしょうか。
自分自身を癒すために日夜治療に励む医者。そんな医者たちの、独創的な処方箋を収集し、公開をする病院。好奇心や退屈しのぎ、気休め、あるいは救いを求めてやってくる患者。
患者たちは陳列された処方箋の中から、それぞれが抱える症状(無自覚の場合もある)に効きそうな処方箋を探す。あるいはみつけたり、”出会ってしまう”。


"病院通い"を省みる

自分自身を治癒しようとして制作活動を行なっている自分は、今まで美術館=病院にどのような心持ちで訪れていただろう。自分の作り上げた処方箋(作品)と比較したり、処方箋の陳列方法や医者(作家)達の生い立ちに目を配らせてばかりの、”襟を正した”鑑賞に偏っていたのではなかろうか。

私の場合は学ぶ姿勢が強いまま美術館へ行ってしまうと、それは同業者、職業フィルターを介した目線鑑賞に陥っていた気がします(創作上の悩みを治しに行く、と捉える事もできますが)。
他人の鑑賞方法がどうあれど、それを否定する気はありません。ただ、上記のような袖を正した鑑賞を、鑑賞の全てあるいはスタンダードだと思ってしまうと、美術館の持つ可能性をとんでもなく狭めてしまう気がしてなりません。

制作を通じて自分自身を”治癒”し、それでも手が回らないところを治しに行く。あるいは、自分でも気づかなかった悩みに出会うために美術館へ足を運ぶ。その意識を忘れないでいたいなと思います。

そして襟を"正さず"美術館へいくためには、制作もまた襟を正さず行うべきなのかもしれません。

2023/12 追記

国立台湾美術館と台北市立連合病院の連携による「博物館処方箋」という鑑賞プログラムを知りました。↑のエッセイは制作目線の主張ではありますが、興味深いのでご紹介。

【翻訳】国立台湾博物館発行「社会的処方」の実践をまとめたガイドブックの日本語版を作成しました。
https://www.zuttobi.com/research/T4ARw8og

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