忍者、事務職はじめました Vol.6
「それではみなさん、改めまして、おはようございます」
「おはようございます」
「本当は昨日からでしたが、今日から一緒にこの会社で働くことになりました、ハヤクジさんです」
「みなさん、よろしくお願いします」
「社長、たぶんみんな、結構ハヤクジさんのこと知ってますよ」
「そうよね、出勤してから結構いろんな会話したもんね」
「オイラはあまりトークしてないけどな」
「まぁ、カマイさんは、どうせいつもみたいに、すぐに仲良くなるんでしょ?」
「どうせって何だよ、ウカミ。すぐに仲良くなるのは、いいことじゃないか」
こうして見ると、この会社の人達は、私以上にインパクトのある人達なのかもしれません。
でも、直感で仲良くやっていけそうな気はしていました。
「ではみなさん、今日もシュシュッと、営業をお願いします」
「はい、社長、シュシュッと営業してきますね」
ウカミさん、オンダさん、カマイさんの3人は、まるで韋駄天のように営業へ出かけました。
私と社長さんが会社に残り、いよいよここから私の、本当の意味での社会人生活が始まります。
「さて、ハヤクジさん。ハヤクジさんにやってほしいことは、まずは日々の経理データの入力です」
「表計算ソフトで入力すればよろしいですか?」
「おお!さすが、事務職で仕事を探していただけのことはありますね。そうです、話しが早くて助かります」
「では、データファイルをください。さっそく入力しますので」
私には1台のデスクトップパソコンが割り当てられました。
営業の3人が、たまに使う程度だということで、これからは私がメインで使うことになりました。
社長さんから経理データのファイルを受け取り、私はさっそく入力作業に取り掛かりました。
「終わりました」
「え?まだ、30分しか経っていませんが、もう終わったのですか?」
「はい、もう終わりました」
「物凄い勢いでカチカチという音がしてたのは、入力スピードだったんですね。凄い、凄いですよ、ハヤクジさん」
「入力スピードだけは、独暇のししょ…、あ、先生に、いつも褒められていました」
「いやぁ、本当にいいんですか、たったの20万円の給料で。今のだけで、30万円くらいは価値があると思いますけど」
どうやら社長さんは、価値を見誤るタイプの方のようです。
でも、人を褒める天才だと思いました。
独暇流忍術の1つに、独暇五者五車四諦(どっかごしゃごしゃしたい)の術というのがあります。
これは、学者、役者、易者、芸者、医者になりきり、相手を喜ばせたり、怒らせたり、哀しませたり、楽しませたり、怖がらせたり、驚かせたりして、苦から逃れられるようこちらのペースに巻き込む術で、口車に乗せて、自分の思い通りにする一方で、相手にも利があるWin-Winなコミュニケーション術のことです。
相手を喜ばせることで、社長さんのペースに巻き込まれる、まさに喜車の術に通ずるものがあります。
昔の忍者は、類まれなるコミュニケーション能力を持っていました。
それにより、あらゆる場所へ潜入し、必要な情報を盗むことができたのです。
社長さんは、頼りなさはありますが、どうやらコミュニケーション能力だけは非常に高く思います。
だからこそ、社長として社員をまとめていられるんだと思います。
コミュニケーションの取れない経営者は、社員に好かれるわけありませんからね。
初日(本当は2日目)の仕事は、ソツなくこなすことができました。
入力作業がほとんであったため、私の強みを発揮できたと思います。
社長さんも、まずは私の強みが入力作業にあることを、何となく肌で感じたんだと思います。
社長さんは、人の使い方も、おそらく上手なんだと思われます。
「ハヤクジさん、あと30分で終業時間です。初日でしたが、いかがでしたか?」
「はい、最初は少し緊張していましたが、社長さんをはじめ、皆さんがとても接しやすく、いい会社だなと思いました」
「それはありがとうございます。皆さんも喜ぶと思います、今の話しを聞いたら」
「いえいえ、本当にそう思いましたので。ここで働けることになって、本当に良かったです」
「これから、頑張ってもらいますね」
「私にできることなら、何でもやりますよ!」
こうして私のフリータイムアローン株式会社での、初日の仕事が終わったのでした。
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