忍者、事務職はじめました Vol.10
「かんぱーい!」
「いやいや社長、ソーファストですね」
「どうしました、カマイさん」
「社長、カマイさんが言いたいのは、せめて歓迎の挨拶をしてからの乾杯じゃないんでしょうか、ということだと思います」
「ザッツライトだよ、ウカミくん」
「歓迎の意を込めた挨拶らったんれすけろねぇ~」
「え?社長、もう酔っちゃったの?」
「そういえば、社長がお酒を飲んだの、見たことがないですよ」
「ハングオーバーが怖いけど、明日はホリデーだからオーケーじゃない?」
などという会話から、私の歓迎会が始まりました。
歓迎会というイベントに初めて参加したことはもちろん、職員のみなさんとの時間がとても楽しく、毎日歓迎会をやればいいのに!と思ったほどです。
「ハヤクジさんってさぁ、最近あまり面白くないですよね」
ウカミさんの突然すぎるツッコミにたじろぐ私。
手を差し伸べてくれたのは、オンミツさんでした。
「ウカミくんが慣れすぎちゃったからでしょ?私にとっては、十分面白いけどね」
「そうかなぁ?まぁ、確かに最近、ハヤクジさんのことをNicePicksに投稿していないかもしれません」
「ほら、やっぱり。ただの慣れよ」
「私って、そんなに面白い人間なのでしょうか?」
「ファニーというより、インタレスティングだけどね」
カマイさんとの会話のほうが、私にとっては面白い…と言いかけて、言うのを辞めました。
なぜなら、社長さんが30分以上もトイレから戻ってきていないと気付いたからです。
「さすがに私は女子だから、助けてあげられないわ」
と言いながら、興味津々で男子トイレに入ろうとするオンミツさん。
なぜか今日の私は、オンミツさんを目で追うことが多いと感じました。
これはもしかしたら…
「社長、大丈夫ですか?」
「はい?なんれすか?ワターシ、トイレツカテルヨ」
「ダメだな。カマイさん、どうしましょう?」
「ソーリー、ウカミ。こんなトラブルは、若い君に任せるよ」
「ウカミさん、私が手伝いますので、まずは社長さんをトイレから出しましょう」
「でもハヤクジさん、鍵がかかってますよ」
忍者として、解錠するスキルはあるのですが、ここで見せるわけにはいきません。
しかし、こういう場合の対処方法を、私は知っています。
「みなさんは、店の人を呼んできてください。私は、何とか社長さんに中から鍵を開けてもらえるようにしてみます」
そういうと、3人は店員を呼びに行きました。
その隙に、シュシュッと解錠しました。
「ねぇ、別に3人で呼びに来なくても良かったんじゃない?」
「あ、そういえば!」
「ワオ!」
3人が戻ってきた頃には、トイレの鍵が空いた状態で、私が社長さんを背負っていました。
「あ、鍵が空いたんですか?」
「はい、社長さんが何とか開けてくれました」
忍者であることがバレずに済みました。
それと同時に、久々に忍者らしいことをし、清々しい気持ちに包まれていました。
やはり私は、忍者を辞めることは無理なようです。
辞めようと思ったことはありませんが。
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